3章 エピローグ
軍列は、宮殿へ続く全長5キロの大通りを進んでいた。
兵士たちは勇壮な軍歌を響かせ、規則正しく軍靴の音を鳴らしながら行進する。
沿道では兵士たちの家族が、その姿を誇らしげに、そして静かに見守っていた。
それから1時間後。
宮殿中央の大広場において、記念式典が執り行われた。
隊列の再編成が完了して数分後、宮殿3階のバルコニーに姿を現したのは、皇帝ではなかった。
そこに立ったのは、
若き元帥ペリゴールであった。
広場には、訝しむような小さなざわめきが広がっていた。
しかしペリゴールは何も語らず、ただ静かに群衆を見下ろして待ち続けた。
やがて雑音は消え、空間を支配するのは、広場を埋め尽くす兵士たちの息を呑むような呼吸音だけとなった
30分後
男はついに口を開いた。
「諸君」
一言男は呟き また黙り込んだ。
「我等ヴィルト民族は、この20世紀の中で最大の危機に瀕している
世界随一の優れた工業力を持つ我等の祖国が
何故危機に瀕しているのか。
何故世界一の領土を誇る我等の祖国が貧困に喘ぎ飢えなければならないのだ、
何故畑が枯れるのだ!
何故だ!
それは何故か!?
それは王国が、祖国の大地に毒を撒いたからだ!
10年前の話をしよう!王国は、貪欲にも
自国の領土では飽き足らず、伝統あるヴィルトの祖先から受け継いできた領土に足を踏み入れ続け国境侵犯を繰り返してきた!
遂に5年前!騎兵隊が、治安警備の為に国境警備中!
奴らは卑劣極まりない奇襲攻撃を、仕掛け
無惨にも、5000人の尊い命が一方的に虐殺され
奴らは帝国に向けて、侵攻を開始した!!
私が率いた多くの将兵達の奮闘により、本土の侵攻は奇跡的に阻止できた!
そして今日に至るまで
幾千の同胞の献身により、祖国は守られてきた。
だが早期終結は叶わず
ウェルダンの土地は苛烈な戦闘により
不毛の大地と化した! このままは、世界そのものが荒廃してしまう
大いなる創造主は、このような事を!
望むはずがない!卑劣な行いを赦すはずがない!」
バルコニーから見下ろすペリゴールの眼差しは、もはや演説者のそれではなく、預言者のように熱を帯びていた。
まるでこの国を救うのは、我らだ
そう言わんばかりに
「1000年前我等の祖先が東からの侵略者を退けた様に、我等が結託すればどの様な困難も退けられる筈だ! い!退けなければならない!
我々には1000年前の英雄の血が流れている
今我こそ救国せんと献身を、決意しこの場に集ってくれた諸君にもだ!」
「そして 遂に!帝国の技術の集大成であり
この長きにわたる戦争に引導を渡せる、神の意志が 完成した!
空を自由に舞い 地ではありとあらゆる障壁をなぎ倒し突撃する!! この二柱の神が戦場に舞い降りた時! 我帝国は永遠の繁栄を謳歌するだろう!」
ペリゴールは両腕を大きく広げ、大群衆に向かって叫んだ。
「奮進せよ臣民!1000年先の子孫が一片の淀みなく誇れる千年帝国をために!世界は我ヴィルトの為にある!! 未来の子々孫々が世界に向けて 誇れる千年帝国を、築き上げる義務があるのだ!
燃えろよ国民!その身をも焼き尽くす熱を、
卑怯者共にぶつけるのだ!!Hill Wild!!」
HILLLL!! WILD HILL!!WILD!
HILLLLLL!!!!
HILLLL!!! HILLL!!
HLL!!!
宮殿の大広場に集まった人々は、我を忘れて祖国の名を声高く叫んだ。
熱狂する兵士たち、そして見守っていた家族たちまでもが涙を流して叫ぶその姿は、もはや一つの狂信的な宗教のようであった。
地鳴りのような歓声が落ち着いた後、ペリゴールはマイクを通さず、しかし広場の隅々にまで届くような静かな声でつぶやいた。
「もし」
「諸君がさらなる名声と献身を求めるのなら。」
男は深く息を吸い、決定的な言葉を放った。
「祖国に更に献身を望む若き
無限の英雄達よ!この場で一歩踏み出し
突撃隊に志願して
一歩踏み出してくれまいか!
その一歩が、明日の愛する妹や母が
生きていく為の荒野に生まれた一つ轍となるのだ!! たとえ一人の轍は小さけども
もしこの場の皆が志願すれば、轍は集まり、
未来の1000年先の同胞子々孫々の歩む、道となるだろう!! 」
「無限の可能性秘める英雄達よ!この場で!
この場で一歩踏み出してくれまいか!!」
最初に、一人の青年が一歩前に進み出た。
すると、その横にいた二人も進んだ。その隣の者も前に進んだ。
やがて横一列の兵士たちが、まるで一つの生き物のように一斉に一歩を踏み出した。その後ろの列も踏み出し、続々と前へ出て行く。
死地である突撃隊への志願。迷い、戸惑っていた少年たちも、その圧倒的な同調圧力と熱狂の波に抗うことはできず、押し流されるように前へ進んでいった。
「若き英雄よ! 諸君の奮闘を期待する!!」
周囲に流されて歩を進めた無数の群れの中に、涙を浮かべながら、無理やり笑っている一人の少年がいた。
こうして学徒出陣、並びに士官学校の卒業式は、多くの家族の歓声に見守られながら、華々しく、そして残酷に幕を閉じた。
次回更新は7月28日を予定しています。
これから、2章までの再執筆を行うため御容赦下さい。




