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白鉛紀  作者: 猫吸い中毒者
第2章 ポンペアン鉱山破壊作戦
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16/18

番外編  兵器改革



膠着した戦線の打開の決定打に欠けていた


帝国軍は、国内の主要兵器メーカー各社へ、新兵器の開発を命じた。




要求は三つ。


――塹壕突破能力に優れること。

――人的損耗を可能な限り抑えること。

――量産が可能であること。




しかし、各社が導き出した答えは、まったく異なっていた。




エンジン技術に優れるバーヴェン・ガヴォード・エレクトロニクスが導き出した結論は、実に単純だった。



「ならば、空を飛べばいい」



塹壕も、有刺鉄線も、機関銃陣地も、上から越えてしまえば関係ない。



こうして同社は、世界初の軍用航空機の開発へと舵を切った。





一方、金属加工技術に優れるグロース・ヴィルト・マッファイは、まったく別の答えに辿り着く。



「兵士が危険なら、兵士を鉄で包めばいい」


自動車へ装甲を施し、機関銃を搭載した

「動く盾」


同社は、装甲戦闘車両の研究開発を開始した。



やがて、二社の試作兵器による競合試験が実施される。


しかし、その試験は、帝国兵器開発史に残る失敗として記録されることとなった。





バーヴェン・ガヴォード・エレクトロニクス製の試作航空機は、白鉛機関によって1200馬力という破格の出力を実現した。



しかし、初期型の木製フレームは、その強大な出力に耐えきれず空中分解。



改良型では、頑丈なタングステン製フレームへ変更されたものの、今度は重量が過大となり、急降下後の引き起こしに失敗して墜落した。




一方、グロースヴィルト・マッファイ製の装甲戦闘車両は、開発そのものは成功していた。


しかし、車輪式の足回りはウェルダン戦線特有の泥濘に歯が立たず、試験車両の多くが泥にはまり、その場で行動不能となり

結果として、両社の兵器はいずれも帝国軍に正式採用されることはなかった。




新兵器による戦局打開は夢に終わり、帝国軍はなおも歩兵による塹壕突破に頼らざるを得なかったのである。







1916年12月――帝都ズュートヴェステン

グロース・ヴィルト・マッファイ本社


同社の開発最高責任者が壇上に立っていた。 



「皆様 我々はこれまで、数え切れぬ失敗を重ねてきました。」



「従来の装甲戦闘車両は、地耐力――すなわち地盤強度が70以上の地形でしか満足に行動できなかった」




「しかし、ウェルダン戦線に存在するのは、そのような地面ではない それは何か、」


「泥濘です車輪は、接地面積が極めて小さい。」


(技師が図面を指し示す。)


「ご覧ください」


「車輪は、車体重量を一点へ集中させます。」


「だから沈む、ならば、答えは単純です。」


「重量を分散させればいい、そこで我々はこの結論から一つの機構を完成させました。」


「永続回転式履板結合帯。」


「この連続した履板が地面との接触面積を飛躍的に増加させ、車体重量を広範囲へ分散します。」


「泥濘でも沈まない。」


「塹壕も乗り越える。」


「有刺鉄線を踏み潰す。」


「そして機関銃陣地へ、止まることなく前進する。」


「これこそが――」


『Gegen schlammigen Boden Panzerwagen Mark VII(対泥地装甲車マーク7)』


【GP VII カタログスペック】

車体重量:45 トン

履帯設置面積:車体底面の 80%

装甲厚:最高 70mm / 最低 20mm

最高速度:30km/h

燃費性能:1km/L (白鉛機関駆動)

固定武装:

50mm砲 × 1門 (対トーチカ用)

12.7mm機関銃 × 1門 (対歩兵用)


「皆様!!」


「我々は、ついに歩兵を泥の地獄から解放する兵器を完成させました。」




「この兵器こそ、帝国に勝利をもたらす鉄の槍となるでしょう!!」






発表から2日後 第二帝都バーヴェン

バーヴェン・ガヴォード・エレクトロニクス本社


壇上に立った初老の技術総監は、集まった将星たちを見渡し、不敵な笑みを浮かべた。



「皆様、本日は貴重なお時間を我が社の発表会に割いていただき、誠に感謝を申し上げます。」 


「先だってグロース・ヴィルト・マッファイ社が発表した新型車両『GP VII』は、確かに素晴らしい反響を呼びました。永続回転式履板結合体……彼らの言葉を借りるなら『履帯』ですか

その発想自体は極めて画期的です。しかし…」



設計主幹は声を強め、背後の黒板を強く叩いた。


「我々が軍部より突きつけられた絶対要項を忘れてはなりません

『人的資源の損耗を、限りなく抑えること』

どれほど強固な装甲を纏おうとも、地を這う限り、敵の重砲と機関銃の射程から逃れることは絶対に不可能なのです! あれでは軍部の要求を完全に満たしているとは言えません!彼等は軍部に!国家に対して条件を満たさない不完全品を、売りつけたのです!」





一瞬の静寂 設計主幹は大きく手を広げた。

「我々はこの致命的な問いに対し、全く異なる高みから答えを導き出しました。ご覧ください!」

 



幕が引かれ、そこに鎮座していたのは、これまでの高翼機とは一線を画す、巨大な「円盤の怪鳥」だった。胴体と翼が滑らかに一体化したその異形に、会場の将校たちからどよめきが漏れる。



「翼がないぞ…以前見たものは3枚翼があったぞ…」 「これで飛べるのか…」



「しかもエンジンが2つ端についている…」




「我が社の総力を挙げて開発した、従来のあらゆる範疇を逸脱する革新的兵器。高速で空を駆り、地の生命を刈り取る空地の覇者」

――開発名Bodenangriffsflugzeug 9

(対地攻撃機9号機)』


我が帝国の国鳥たる鷲の威名に肖り、これを

『AD78 Adler』と命名いたします!」



「皆様は今、こう脳裏にこうよぎった筈です。

『これで何ができるのか?』と素晴らしい疑問です!」


技術総監は誇らしげに胸を張る。



「今日に至るまで、人類にとって空は

『気球による制御不可の偵察の場』であり、  重武装した有人制御飛行など不可能の領域とされてきました。しかし、我が社の世界随一の技術がそれを過去のものとしたのです!」



「 推進プロセスをご覧ください。本機はエンジンを両端に配置し、プロペラが莫大な量の空気を押し出すことで強大な推力を得て前進します。」



「試作段階では機体前部に単発エンジンを置いていましたが、対地掃射を行う際、プロペラが武装の射線を遮る致命的な障害となっていました。そこで我々は、機体そのものを巨大な翼とする形状を選択し、爆発的な揚力を確保。これによりエンジン配置を翼端にする事を可能とし、前方に前代未聞の重武装スペースを捻出しました。」





【AD78 Adler カタログスペック】

最高速度: 450km/h

縦旋回: 7.8秒 / 横旋回: 28秒

固定武装: 7.7mm機銃12門

20mm連装機関砲1門

懸架武装: 50ポンド爆弾×8




「3〜8号機は機体にアルミニウム合金を使用しておりましたが、当鉱物は、北の連合王国

でしか採掘が困難であり、必然的に輸入する事になります。

そうなるとどうしても供給量と価格に難が出てきてしまい、軍部の要求である量産適性を満たすことは出来ませんでした。」


「そこで我社は、果なき探究の末、すべての条件を克服する素材を発見しました。」



本機体の機体構造には、軽量かつ極めて高い張力を持つ白鉛金属を採用しました。


これにより、アルミニウムを遥かに凌駕する低価格と、 いずれ起きるであろう、地面からの対空砲火に耐えうる堅牢性を両立させております。」



技術総監の目が、狂信的な光を帯びる。



「この荘厳なる空の覇者こそが、二年におよぶ不毛な塹壕戦に終止符を打つ決定打となるでしょう、そしてこの戦争に打ち勝ったその時、

我が祖国は、永遠の繁栄を謳歌することとなるのです!」


明日、飛行を行いますので、是非とも御覧下さい人類の進歩を体験する事が出来るでしょう!



会場は熱狂に包まれた。

将校たちは惜しみない拍手を送り、 投資家たちは競うように契約書へ署名し、 製鉄会社の社長は工場への増産命令を飛ばした。


その喧騒の片隅でヴィルトマッファイ社長だけが、静かに唇を噛み締めていた。



後日、2社の製品競合の結果、

帝国軍元帥であるペリゴールは以下の事を決定づけた。


2社の製品の採用と量産、そして

新兵科である機甲科と航空支援科の、設立


そして騎兵による物資の運搬を完全に廃止し

車輌による物資の運搬を決定づけた。



この事を反対を押し切り採用した結果、

彼は、後世にて 近代戦争の父と言う

皮肉に塗れた称号をつけられることになる。


 


帝国が改革を進めるその頃――。

王国もまた、独自の新兵器開発と軍制改革を密かに進めていた事を

この時、帝国首脳部はまだ知らない。

自ら切り開いた「近代戦争」という時代が、やがて自分たちにも牙を剥く事を。

次回更新は、7月14日を、予定しております。

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