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白鉛紀  作者: 猫吸い中毒者
第2章 ポンペアン鉱山破壊作戦
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15/19

2章エピローグ




霧が晴れた後のポンペアンは、まるで巨大な白い墓所と化していた。


丘の上に立つ男は、双眼鏡を握りしめたまま、微動だにしなかった。


今作戦司令官

エーリヒ・ヴァルデン、53歳。ステディ軍参謀本部副長。

元は白鉛病で妻と幼い娘を失った元帝国所属の医師だった。彼は自らの手で家族の肺を白く固まらせていく過程を、ただ見守ることしかできなかった。あの無力感と、純白の結晶が家族の体を侵食していく光景が、彼を反白鉛の道に駆り立てた。以来、彼は「白鉛をこの世から根絶する」事を、生涯の贖罪と信じて生きてきた。理想主義者であり、同時に極めて苛烈な現実主義者でもあった。



だからこそ、彼は最後までガス兵器の使用に反対し続けた。


会議では机を叩き、声を荒げ、時には上層部を「理想を食い物にする卑劣漢」と罵った。


「これを使えば、我々は白鉛そのものになる。敵を憎むあまり、自分たちまで毒に染まる愚行だ」と。

しかし、組織は彼の声を聞き入れなかった。


前線指揮官の彼は、止める事は出来た、

だが、この道を進まなければ、更に大きな犠牲が出ること。


仲間たちやこれから生を受ける、存在を救い

未来を得るにはこの犠牲が無ければ、成り立たない、

「そうだ、この戦いは正義の戦いなのだ、全てを終わらせるための戦いなのだ、私達のすることは未来のすべての命を守る行為なのだ、」

そう言い聞かせ、部下に実行の命を出した。

間違っている事を受け入れたくない、認めたくない、

その気持ちを、聖戦と言うなの神のご意思の名の下に喉の奥に飲み込んだ。


そして2時間後

ヴァルデンは今、眼下に広がる惨状を、虚ろな目で見下ろしていた。


白く固まった母親が、幼い子供を抱きしめたまま永遠に凍りついている。


笑顔のまま白鉛と化した少女。


互いを抱き合い、苦痛に歪んだ顔で石となった夫婦。

すべてが、無傷のまま、白い死の彫像と化していた。


「……これが、我々のしたことか…

 なんでこんな事になったんだ。あの子達は今の私を見て誇りに思えるだろうか…」

彼の声は、風にかき消されるほど小さかった。


喉の奥から、嗚咽とも吐き気ともつかないものが込み上げてきた。


家族を白鉛に奪われた自分が、今度は数万もの無辜の民を、同じ白鉛で内側から殺した。

皮肉か。運命の嘲笑か。


彼が最も憎んだものを、自らの手でこの世にばらまいてしまった。

ヴァルデンはゆっくりと膝を折り、地面に手をついた。

指先が白い粉を掴む。

自分たちの放ったガスが、風に乗ってここまで届いていたのだ。 

「我々は……何も醒ませなかった。

ただ、新たな夢を撒いただけだ……」

目から涙が零れたが、それはすぐに乾いた。

白い粉が、涙の跡に張り付いていく。

反白鉛の理想は、とうに白く染まりきっていた。

いや、最初から白かったのかもしれない。

ヴァルデンは、ただ静かに、声を殺して泣いた。



誰にも聞こえないように。

誰にも知られないように。

この戦いで最も重い罪を背負った男として、ただ一人、絶望の底に沈んでいった。




  

                 第2章完

これにて一章は完結となります。

3章は個人の視点となります。

次回更新は、7月7日を予定しております。


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