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白鉛紀  作者: 猫吸い中毒者
第一章  地中深く沈む白い叫声
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第10話 神のご意思の名のもとに

 



白鉛という未知の物質がもたらした、人類史における圧倒的なパラダイムシフト。それは大国の軍事力を跳ね上げ、何もない農村を数年ににして巨大な近代都市へと変貌させる「神の奇跡」そのものであった。


しかし、その奇跡が成し遂げた進化の裏には、あまりにも残酷な代償が隠されていた。

物質としての「過剰なまでの安定性」。

一見すれば劣化せず、エネルギーを失わない究極のメリットに見えるその特性こそが、生命にとっての致命的な毒であった。あまりにも物質として安定しすぎているがゆえに、人間の肉体は一度取り込んでしまった白鉛を「分解・排出することが不可能」**なのである。

逃げ場を失った白鉛は、静かに、だが確実に細胞の奥底へと蓄積されていく。

これによって引き起こされる肉体の拒絶反応と崩壊そしてその結果白鉛病によって死亡した遺体の中の白鉛は肉体と結合し有機白鉛となる

――それこそが、国家が隠蔽し続けた「白鉛病」の真実であった。


体内の白鉛蓄積率が上昇するに従い、肉体は段階を踏んで「白鉛と言う名の石ころ」へと近づいていく。その進行度は、死へ向かう厳密な階梯として定義されていた。


汚染度1

持続的な頭痛、および激しい吐き気

汚染度2神経への侵食。頻発する嘔吐、および四肢の痺れ。

汚染度3 四肢の一部の痺れ

汚染度4 四肢の一本以上の完全な麻痺、意識混濁、骨の脆化による自然抜歯。

汚染度5 断続的な嘔吐と目眩、深まる意識混濁、四肢の二本以上の麻痺。

汚染度6 意識の疎通の不可、四肢全ての麻痺消化器官の白鉛化による栄養供給の不可

汚染度7  白鉛化


人間の肉体が、ゆっくりと時間をかけて白鉛に浸食され、物言わぬ鉱物へと変えられていく恐怖のシステム。本来であれば、それは数年から数十年をかけて進行するはずの「病」であった。


 しかし、この進行メカニズムを冷徹にハッキングし、病を「戦術」へと昇華させた兵器が存在した。

それこそが、かつて反白鉛を掲げたステディがポンペアンの山々で解き放った、

あの史上最悪のガス兵器――『気化酸化白鉛(コードネーム:No TITLE)』である。 

体内への吸収率を限界まで高められたこの悪魔の気体は、吸い込んだ人間の細胞に「酸素」と誤認させることで、本来なら一生をかけて蓄積されるはずの白鉛を、わずか数分、あるいは数秒の間に強制的に肺胞から引きずり込む。これこそがステディが生み出し己を生きながらえさせた最も隠蔽したい真実であった

数十分前まで誇りを持って笑っていたポンペアンの住人たちも、要塞に籠もっていた50万の王国軍兵士たちも、この緑白の霧に巻かれた瞬間、体内の蓄積率を垂直跳びに出口(汚染度6)まで引き上げられた。

頭痛から始まり、痺れ、意識が混濁し、歯が抜け落ち、やがて呼吸の仕方も忘れた鉱物となって動かなくなる。

まさに神のご意思の名の下に、もたらされた奇跡。


その正体は、生命を最も効率的に「ただの石ころ」へと還す、完璧に安定した死のプログラムに過ぎなかったのである。



これが魔法だったらどれほど良かった事か。

次回更新は 

6月16日 正午を予定しております。

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