第7話 正義と自由の名の下に
白鉛根絶を掲げながら、白鉛資源の奪取へと舵を切ったステディの前に、50万の王国軍が立ちはだかった。
正面突破は不可能。15万の兵力では、すり潰されるだけだった。
彼らが命綱として狙いを定めた王国の至宝、ポンペアン鉱山。そこには大国の総力を挙げた50万人もの王国軍防衛部隊が、蟻の這い出る隙もないほどの強固な布陣で待ち構えていたのである。
残存兵力わずか15万、だが背後は既に崖のステディ、
正面からまともに攻略を試みれば、数と火力そして強固な塹壕と言う名のすり鉢に潰され、一瞬で全滅することは火を見るより明らかであった。
理想の果てに追い詰められたステディは、ついに神の禁忌に手を伸ばす。
ステディ軍上層部は、この大戦の歴史において、そして人類の歴史において史上最悪の一手を選択した。これにより後世のステディの評価は、白鉛からの世界の解放を目指す正義の反乱軍という名声は地に落ちる事となる。
それは、この世界で初めて誕生した、
悪魔の大量殺戮兵器――「ガス兵器」あった。
本来、白鉛の粉塵はそのまま吸い込んだとしても、肺の細胞で弾かれやすく、体内への直接的な吸収効率はそれほど高くない。それゆえに大国も、これまでは「火薬の推進力」や「物理的な汚染」としてしか白鉛を兵器利用できていなかった。
しかし、ステディの科学者たちが絶望の底で完成させた技術は、あまりにも悪魔的だった。
【開発コード:気化酸化白鉛】
通称 No TITLE
白鉛粒子に酸素を結合させ、呼吸可能な形に偽装させる事で
人間の肺はそれを酸素と誤認し、拒絶ではなく受 容として取り込んでしまう。
その瞬間、肉体は内部から書き換えられる。 白鉛は侵入ではなく循環として全身を駆け抜け、
逃げ場なく結晶化を進めていく。
誰よりも世界の汚染を憎み、「反白鉛」を掲げていたはずのステディ。
彼が最後に行き着いたのは、世界で最も純度の高い“汚染”を生み出し、それを戦場へと解き放つことだった。
その霧は、立ち向かう軍人だけでなく、そこに佇む民間人の喉にも等しく溶け込んでいった。
正義を掲げたその手が最も静かに世界を汚していく、それを皮肉と呼ぶには、あまりに現実的すぎる結末だった。
【ステディ総司令部・ガス投射命令】
「本計画を『破壊作戦』と偽装した真の理由がこれだ。15万の兵で50万を屠り、鉱山を生かしたまま手に入れる。風向きを待て。緑白の霧で、ポンペアンを包み込め」
山を破壊するためではない。50万の王国兵だけを内側から文字通り「消滅」させ、無傷の鉱山をそっくりそのまま強奪するために。
高潔だったはずの抵抗軍の手に握られた、緑白の毒ガス弾。
ポンペアンの美しい山々に、人類史に永遠に消えない泥を塗る、最悪の化学戦の幕が上がろうとしていた。
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追記 更新は土曜日の12時を予定しております。




