平凡
咲は対策課のフロアを見渡した。
「ここには化物しか居ないのか……。」
小さく呟く。
対策課には優秀な人間しか居ない。
戦闘の天才。
分析の天才。
交渉の天才。
全員が何かのプロフェッショナルだった。
その中で。
咲は自分を平凡だと思っている。
「資料整理しときました。」
「ありがとうございます。」
「ここ、見落としありますよ。」
「あ、本当だ。」
「どうしましたか?」
「代わりに伝えておきますよ。」
誰にでも強みと弱みがある。
弱みを見抜く。
フォローする。
そうすれば相手は動きやすくなる。
その結果として。
相手の強みを借りる事も出来る。
咲はずっとそうやって生きてきた。
「あ、この前頼んだ件ですけど。」
「もう終わってますよ。」
「え!?」
職員が目を丸くする。
「もうですか!?」
「ありがとうございます!」
咲は軽く手を振った。
「大した事じゃないですよ。」
そんな反応にも慣れている。
自分より優秀な人間を支える。
その人達が成果を出す。
それを見るのは嫌いではない。
むしろ好きだ。
少しだけ。
快感すらある。
だけど。
それでも。
自分が優秀になった訳ではない。
自分が特別になった訳ではない。
咲は小さく息を吐いた。
そして帰路につく。
◇
「咲様!」
玄関を開けた瞬間。
元気な声が飛んできた。
「ご飯出来てます!」
咲は思わず笑う。
「律人君、ありがとね。」
無明は嬉しそうに頷いた。
対策課最強格。
神すら斬り殺せる怪物。
ここにも化物が一人居る。
咲は鞄を置きながら考える。
そういえば。
この飴はまだ使っていなかった。
「律人君。」
「はい!」
「いつもありがとね。」
無明が首を傾げる。
咲は続けた。
「私、律人君に助けられてばっかりだよ。」
「律人君が居なかったら駄目かも。」
これを言えば喜ぶ。
分かりやすくて効果的な飴。
そのはずだった。
だが。
無明は不思議そうな顔をした。
「ん?」
「何がですか?」
咲は少し固まる。
「あー……。」
「ほら、いつも助けてもらってるし。」
無明は即答した。
「当然では?」
「え?」
「咲様は幸せになって当然の存在です。」
あまりにも自然な口調だった。
「だから最大限尽くします。」
咲は目を瞬かせる。
「どうして?」
無明は本気で意味が分からないという顔をした。
「咲様だからです。」
「そう……なの?」
「ですです!!」
満面の笑み。
咲は数秒黙った。
そして結論を出した。
良く分からない。
◇
翌日。
「律人君。」
「はい!」
「斬ったカタストを組み立ててキメラ作るの辞めようか。」
無明は心底不思議そうな顔をした。
「え?」
「かっこよくないですか?」
咲は額を押さえた。
「そういう問題じゃないんだよなぁ……。」




