特別
咲は書類へ視線を落とした。
「さて……。」
無明律人の運用権限。
承認さえ通れば、結果は出せる。
そう確信していた。
「律人君を運用出来れば成果は出る。」
承認はその為の下準備に過ぎない。
「結果が出れば上とも話せる。」
「そうすれば、もっと思い通りになる。」
しばらく考える。
そして小さく息を吐いた。
「……で?」
部屋には誰も居ない。
「それをした所で何になるんだか。」
昇進。
権限。
評価。
欲しくない訳ではない。
だが。
「別に私が特別な何かになる訳じゃないし。」
どれだけ成果を出しても。
どれだけ評価されても。
結局はその他大勢の一人だ。
咲は椅子へ深く腰掛けた。
「まぁ。」
肩を竦める。
「だからって辞めるのは論外だけど。」
努力はする。
結果も出す。
それが当たり前だから。
その時だった。
勢いよく扉が開く。
「咲様!!」
咲は思わず顔を上げた。
「ん?」
扉の向こうには無明が居た。
「どうしたの?」
無明は迷いなく近付いてくる。
「寂しかったので会いに来ました。」
あまりにも当然のように言う。
咲は少しだけ笑った。
「そっか。」
「ごめんね。」
無明は期待に満ちた目を向ける。
「撫でてください。」
「はいはい。」
咲は無明の頭へ手を置いた。
優しく撫でる。
無明は嬉しそうに目を細めた。
「嬉しいです。」
「それは良かった。」
「咲様。」
「ん?」
「大好きです」
咲は少し考える。
そして意地悪く聞く。
「律人君は?」
「私の事、特別?」
無明は不思議そうな顔をした。
「勿論ですけど。」
即答だった。
「本当?」
「そうですけど。」
疑う余地すら無い。
無明はそのまま咲の肩へ頭を預ける。
まるで猫だった。
咲は静かにその頭を撫でる。
「……。」
しばらく沈黙する。
やがて小さく呟いた。
「まぁ、良いか。」
無明が顔を上げる。
「何がですか?」
「なんでもない。」
咲は微笑んだ。
「今日は一緒に寝よっか。」
無明の目が輝く。
「本当ですか!?」
「うん。」
「嬉しいです!」
心の底から嬉しそうだった。
咲はそんな無明を見つめる。
成果。
評価。
権限。
そんな物より。
ずっと欲しかった物がある気がした。
「私なしじゃ生きられなくなったら。」
誰にも聞こえない声で呟く。
「それは特別って言うのかな。」
「どうしましたか?」
無明が首を傾げた。
咲は首を横に振る。
「なんでもない。」
そして。
逃がさないようにするかのように。
咲は無明を静かに抱きしめた。




