演説良かったです!
休憩中。
咲がふと思い出したように灯へ視線を向けた。
「灯さん、べシュルツの演説良かったですよね。」
灯の表情がぱっと明るくなる。
「そうでしょー?」
満更でもない顔だった。
だが次の瞬間。
「論点のすり替えが特に良かったです。」
灯が固まる。
「え?」
咲は構わず続けた。
「神を殺すかどうかという議題から、現状維持の危険性へ意識を逸らした部分ですね。」
「完璧でした。」
「……あー、うん。」
灯は曖昧に頷く。
咲はさらに熱が入った。
「途中で痛い所を刺したのも良かったです。」
「気付かなかったとは言わせない。」
「気付かないふりをしていたんだ。」
「人類全員が。」
咲は満足そうに頷く。
「罪悪感を与える手法として非常に優秀でした。」
灯は少し引いた。
「どこに感動してるの?」
咲は首を傾げる。
「全部ですけど?」
即答だった。
灯は何とも言えない顔になる。
咲は気にせず続けた。
「最後も良かったです。」
「日常を守る為に。」
「恋人を守る為に。」
「家族を守る為に。」
「そして何より、自分自身を守る為に。」
そこまで言ってから咲は頷く。
「スケールダウンが綺麗でした。」
「そうなの?」
灯は半信半疑だった。
「人間は結局のところ、手の届く範囲しか気にしませんからね。」
咲は当然のように言う。
「だから世界の為じゃなく、自分の為に落とした。」
「賛成を取りに行くなら正解です。」
灯は少し考える。
確かに狙っていた。
だが、ここまで言語化した覚えはない。
「……あー、うん。」
灯は笑顔を作った。
「そうそう。狙ってた。」
咲の目が輝く。
「憧れます。」
灯は思わず黙った。
そういえば。
咲の経歴は少し特殊だった。
成績は平凡。
だが巧みな話術と徹底した根回しだけで、一流大学へ入り、一流企業へ就職した人間。
つまり。
人の心を動かす事だけなら、対策課でも上位だ。
灯は少しだけ視線を逸らした。
「なんか褒められてる気がしないんだけど。」
咲は不思議そうな顔をした。
「最高の褒め言葉ですよ?」
灯は天井を見上げた。
多分そうなのだろう。
多分。




