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名推理

仕事中にも関わらず、犬飼は堂々と推理ドラマを見ていた。

それを見つけた叶が呆れたように声を掛ける。

「仕事中にドラマ見るな」

犬飼はテレビから目を離さないまま答えた。

「いいじゃーん。推理ドラマだし、犯人当てるわ。」

「じゃあ私もする。」

叶は当然のように隣へ座る。

「掌返すな。」

ドラマの中では、探偵が事件の説明を始めていた。

『被害者はロープで拘束され――』

犬飼が眉を顰める。

「妙だな……。」

叶が振り返る。

「ん? 何が?」

「引きちぎれば良いじゃん。」

叶は数秒黙った。

「……一般人なんだよ。」

ドラマは続く。

『犯人は監視カメラに一切映っていません』

犬飼が即答する。

「分かった。」

「嫌な予感しかしない。」

「窓から飛び降りた。」

「二十階だけど?」

「なら行けるな。」

叶の肩が震え始める。

さらにドラマが続く。

『駅の監視カメラには映っています。しかし犯行現場までは距離があり――』

「走れば行けるじゃん。」

叶は遂に吹き出した。

「犬飼。」

「なんだ?」

「もっと推理して。」

「おう。」

その後も犬飼は、自分なら出来る理論を延々と展開し続けた。

そして叶は延々と笑い続けた。

その騒ぎを聞きつけたのか、灯と春が様子を見に来る。

「どうしたの?」

灯が不思議そうに尋ねる。

叶は笑いを堪えながら説明した。

「犬飼が推理してる。」

灯は少し興味を示した。

「へぇ。」

ちょうどその時、ドラマの中で凶器の話題になる。

『被害者はハンマーで殴打され――』

犬飼が首を傾げた。

「あれ?」

「今度は何?」

叶が既に笑いながら聞く。

「なんでハンマーで殺せるんだ?」

「……。」

「ハンマーがひしゃげるだろ。」

灯が吹き出した。

春は頭を抱えた。

「もう駄目です、この人。」

そこへ都合よく無明まで現れる。

「何してるんですか?」

叶が指差す。

「推理ドラマ見ながら推理してる。」

無明の目が輝いた。

「良いですね!!」

春が嫌な予感を覚える。

「やめてくださいね?」

無明は元気よく手を挙げた。

「トリック考えました!」

灯が面白そうに身を乗り出す。

「お?」

「街ごと斬り刻めば証拠残りません。」

沈黙。

春が即座に否定する。

「それトリックじゃないです。」

しかし灯は感心したように頷いた。

「なるほど。」

春が振り返る。

「なるほどじゃないです。」

灯は少し考えてから言う。

「私なら世界を極寒に変えるかな。」

「だから犯罪計画を立てるなと言ってるんです。」

春が本気で頭を抱えた。

「まともな人は居ないんですか……。」

その言葉に、叶がニヤニヤしながら春を見る。

「一ノ瀬君はまともだもんねぇ。」

春は嫌な予感しかしなかった。

「何ですか。」

「神をアナフィラキシーショックで殺そうとしたし。」

全員が春を見る。

春は即座に反論した。

「戦略です。」

犬飼が頷く。

「怖ぇ。」

無明も頷く。

「怖いですね。」

灯まで頷いた。

「確かに。」

春は何も言えなくなる。

叶は更に追撃する。

「セキュリティも死体からライセンス奪えば突破出来るもんね。」

春の表情が固まった。

「からかわないでください。」

叶は楽しそうに笑う。

「セキュリティ強化したの私なんだけど。」

「………。」

「三日徹夜したんだけど。」

「………。」

「原因お前なんだけど。」

春は静かに視線を逸らした。

その日、対策課で一番まともだったのは、珍しく犬飼だったかもしれない。

もちろん誰も認めなかったが。

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