ヘリオス鉱奪還
「私も戦う。」
叶は当然のように言った。
犬飼は頭を抱える。
「一週間も徹夜したんだろ……。」
深いため息を吐いた。
「頭のネジが外れてもおかしくないよな。」
叶の額に青筋が浮かぶ。
「殺すぞ。」
犬飼は聞かなかった事にした。
叶は腕を組む。
「フンガーの能力は効かないよ?」
「脳のエネルギーを奪って思考出来なくさせるんでしょ。」
「思考継続が便利なのは分かったがな……。」
犬飼は呆れたように言う。
叶は頬を膨らませた。
「行くったら行くの!」
結局。
叶も討伐へ同行する事になった。
◇
フンガー討伐戦。
犬飼は横目で叶を見る。
「なぁ。」
「後ろに下がってろよ。」
叶は聞いていない。
代わりに小さく呟いた。
「出てきて、ウルフ君。」
その瞬間。
叶の背後に無数の剣が現れる。
不変のレーゲル――ウルフェレンダーリヒ。
かつて無明によって斬り刻まれたレーゲルだった。
不変であるが故に死なず。
斬り刻まれた後、灯によって凍結され保管されていた存在。
複数の剣の集合体だったそれは、今では一本の剣として再構成されていた。
叶に服従し、ウルフという名を与えられて。
犬飼は遠い目をした。
「もういいや……。」
諦めた。
今さら何を言っても無駄だと理解したからだ。
一方で。
フンガーは機嫌を損ねていた。
自身の能力が効かない存在が三つも目の前に居る。
犬飼。
叶。
そしてウルフ。
気分が良いはずがなかった。
叶は脳波でウルフを操る。
剣は空を駆け。
縦横無尽にフンガーを切り裂いた。
フンガーの体に次々と傷が刻まれていく。
だが。
叶は知らなかった。
カタストが死に際に何をするのかを。
対策課では有名な話だった。
カタストは一撃で即死させろ。
その理由を叶は知らない。
死を悟ったカタストは最後の力を振り絞る。
一人でも多く道連れにする為に。
命を燃やす。
「え?」
叶が目を見開く。
次の瞬間。
フンガーが爆発的な速度で踏み込んだ。
狙いは叶。
その喉元へ牙が迫る。
だが。
その前に犬飼が動いていた。
「だーから。」
犬飼はため息を吐く。
「家でゲームでもしてろって言ったのに。」
蹴りがフンガーの横腹へ突き刺さる。
フンガーの体が地面へ叩き付けられた。
さらに犬飼は空中のウルフを掴み取る。
強引に振り下ろした。
銀閃。
フンガーの体が真っ二つになる。
沈黙。
そして犬飼は肩を竦めた。
「はい。」
「ヘリオス鉱奪還。」
◇
帰還後。
叶は少しだけ申し訳なさそうに俯いた。
「うーん……ごめん。」
犬飼は気にした様子もない。
「カジノでポーカーするか。」
叶は即答した。
「する……。」
数時間後。
犬飼は後悔していた。
叶は自前の観察眼だけで卓を支配した。
次々とチップを巻き上げる。
犬飼の財布も例外ではない。
最終的な被害額。
六十万円。
犬飼は天井を見上げた。
「やっぱゲームしてろ。」




