運用
「えへへ。」
無明は咲に頭を撫でられ、嬉しそうに笑う。
「咲様は優しいです。」
「そうかな?」
咲もつられて笑った。
「律人君が良い子だからだよ。」
「そうですか?」
「うん。」
無明は少し考えた。
そして素直に答える。
「咲様、大好きです。」
「ありがとね。」
咲は優しく微笑んだ。
「じゃあ、ちょっとお仕事してくるね。」
「はい……。」
無明は少しだけ残念そうな顔をする。
咲はくすりと笑った。
「良い子だから待てるでしょ?」
「待ちます!」
無明は即答した。
「待ちます待ちます!」
「よろしい。」
咲は満足そうに頷き、部屋を後にした。
対策課。
咲は資料棚からファイルを取り出しながら呟く。
「律人君が討伐出来そうな土地神かぁ……。」
その声に灯が反応した。
「仕事には慣れた?」
「仕事って言っても。」
咲は資料を捲る。
「律人君を運用するお仕事ですよね?」
灯は苦笑した。
「まぁ、そうとも言うかな。」
「出来る人が居ないから、かなりの好条件で雇われてるんだよ。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。」
灯は頷く。
「さっきも見てたけど、かなり懐いてるじゃん。」
「うーん……。」
咲は少し考え込む。
「もうちょっとかなぁ。」
「ん?」
灯が首を傾げた。
咲は真面目な顔で言う。
「そろそろ飴を取り上げないと。」
沈黙。
灯の動きが止まる。
「え?」
咲は気付かない。
「難しいんですよね。」
資料へ視線を落としたまま続ける。
「律人君が言う事を聞くギリギリのラインを探すの。」
灯は何も言えなかった。
咲はさらに考え込む。
「今は良い子にしてたら抱きしめてあげてるから。」
「うん……。」
「そこを少し調整しようかなって。」
灯は天井を見上げた。
嫌な予感しかしない。
そして咲は閃いたように顔を上げる。
「あ。」
「何?」
「悪い子をチラつかせたら頑張りますかね?」
灯は思わず聞き返した。
「マジ?」
「ん?」
咲は不思議そうな顔をする。
「運用するのがお仕事ですよね?」
灯は頭を抱えた。
「いやぁ……。」
咲は首を傾げる。
「律人君、私の言う事は聞きますし。」
「まぁ、聞くけど。」
「可愛いじゃないですか。」
咲は少し照れたように笑う。
「私の行動で一喜一憂するの。」
灯は全てを理解した。
そして何も言わなかった。
言わない方が良い気がした。




