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咲先生

おおかみのあしあと

ある冬の日。

ゆうたくんと友だちは、山の近くで遊んでいました。

すると雪の上に、大きな足あとを見つけます。

「おおかみだ!」

一人が言いました。

みんなは急に不安になります。

おおかみはこわい動物です。

もし村に来たら大変です。

次の日。

畑の野菜が荒らされていました。

足あとも残っています。

「やっぱりおおかみだ。」

「追い払わないと。」

みんなはそう言いました。

その時。

近くにいたおじいさんが口を開きます。

「本当にそうかな。」

「だって足あとがあります。」

「畑も荒らされています。」

子どもたちは言いました。

おじいさんは足あとを見つめました。

そして静かに言います。

「よく見てごらん。」

足あとはまっすぐではありません。

ところどころふらついていました。

深さもばらばらです。

「けがをしているのかもしれない。」

おじいさんは言いました。

気になった子どもたちは足あとを追いかけました。

山の奥へ進みます。

すると岩陰に、一匹のおおかみがいました。

その足には大きな傷があります。

そして近くには、小さな子どものおおかみが二匹いました。

子どもたちは気付きます。

おおかみは好きで畑を荒らしたのではありませんでした。

子どもたちに食べさせる物を探していたのです。

もちろん、畑を荒らして良いわけではありません。

でも。

おおかみにも理由がありました。

帰り道。

ゆうたくんは言いました。

「ぼく、おおかみは悪いと思ってた。」

おじいさんはうなずきます。

「悪い事をしたかもしれない。」

「でも、理由を知る前に決めつけてしまう事もあるんだよ。」

相手の行動には、自分の知らない理由があるかもしれません。

まずは相手を知ろうとする事も大切です。


「おしまい。」

咲が道徳の教科書を閉じた。

「決めつけは良くないってお話だね、律人君。」

「はい!」

無明は元気よく返事をする。

「見えている物だけで決めつけちゃ駄目です。」

咲は優しく微笑んだ。

「相手には何か事情があるかもしれませんから。」

「難しいですね。」

「考える事が大切なんです。」

「ふむふむ。」

無明は真剣に頷いた。

咲は少し考えてから質問する。

「律人君がオオカミを見つけたらどうしますか?」

「食べ物をあげます。」

即答だった。

「優しいですね。」

咲は嬉しそうに笑う。

「じゃあ、オオカミさんが怖がって襲いかかってきたら?」

「斬り刻む以外でですか?」

「斬り刻む以外でです。」

咲は即座に釘を刺した。

「うーん……。」

無明は真面目に悩む。

「人に聞くのも大切ですよ。」

「咲様ならどうしますか?」

「そうですね。」

咲も少し考える。

「襲われないように、遠くからそっと食べ物を置くとか。」

「良いですね!」

無明は感心したように頷く。

「そうですね。」

咲も満足そうだった。

しかし無明は首を傾げる。

「あれ?」

「どうしました?」

「でも畑は荒らされますよね。」

咲の笑顔が止まった。

「確かにそうですね。」

少し考える。

「畑を荒らすのは悪い事ですし。」

「うーん……。」

今度は二人で悩み始めた。

しばらくして。

無明が期待に満ちた目を向ける。

「咲様ならどうしますか?」

咲は考える。

そして閃いたように顔を上げた。

「食べ物を急に与えるのをやめて。」

「はい。」

「困った所で、働く事を条件に食べ物を渡すのはどうでしょう?」

沈黙。

「天才です、咲様!!」

無明は目を輝かせた。

その様子を見ていた灯と犬飼は絶句していた。

「え?」

灯が固まる。

「マジで言ってる?」

犬飼も引きつった顔をする。

「怖っ……。」

「飼い慣らす気満々じゃん。」

「ちょっと。」

灯は頭を抱えた。

「笑えない方向に行くの勘弁して。」

犬飼も深く頷く。

「道徳教えられるまともな奴、本当に居ないのか?」

灯は呆れたように犬飼を見る。

「少なくともお前が言うな。」

「それはそう。」

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