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飢餓と病

【ヘリオス鉱】

神との聖戦以前より存在が確認されていた超希少資源。

正式名称は「ヘリオス鉱」。

現在の文明を支える最重要エネルギー資源の一つとされている。

ヘリオス鉱最大の特徴は、その異常な発電能力にある。

内部では常に核反応に類似した現象が発生しているが、有害な放射線を一切放出しない。

その為、従来の原子力発電のような巨大施設を必要とせず、都市部や居住区での運用も可能となっている。

拳大のヘリオス鉱一つで一般家庭数百年分の電力を供給可能とされ、その出力は現代文明のあらゆる産業を支えている。

発電施設。

工業生産。

医療機器。

軍事兵器。

宇宙開発。

その全てがヘリオス鉱を前提として設計されている。

現在、人類が享受している文明の大半はヘリオス鉱によって維持されていると言っても過言ではない。

しかし、その供給は極めて不安定である。

理由は単純。

ヘリオス鉱の大規模鉱脈には高確率でレーゲルが出現するからだ。

特に最悪とされる存在がいる。

飢餓のレーゲル。

フンガー。

世界中のヘリオス鉱脈を喰らい続ける怪物。

フンガーが活動を開始した地域では鉱脈そのものが消滅する。

採掘施設は壊滅。

周辺国家のエネルギー供給は停止。

経済活動は麻痺する。

その影響は国家単位に留まらない。

ヘリオス鉱価格の高騰。

発電コストの上昇。

物流網の停滞。

電子機器価格の暴騰。

世界経済そのものが揺らぐ。


【パンケア】

神との聖戦以前より存在が確認されていた超希少植物。

正式名称は「パンケア」。

医療分野において最重要とされる植物の一つである。

パンケア最大の特徴は、その異常な治癒能力にある。

葉。

花。

根。

種子。

その全てに高濃度の治癒成分が含まれている。

骨折。

火傷。

感染症。

神経損傷。

内臓損傷。

パンケアから抽出された薬剤は、それら全ての治療に用いられている。

現在流通する医療品の大半にはパンケア由来成分が使用されている。

その為、

現代医療はパンケア無しでは成立しないと言われている。

しかし。

パンケアには重大な特徴が存在する。

パンケアは極めて特殊な土壌でしか育たない。

人工栽培。

失敗。

温室栽培。

失敗。

品種改良。

失敗。

現在でも野生個体への依存が続いている。

そして。

その生息地には必ず同じ存在が確認される。

病のレーゲル

クランクハイト。

病を司るレーゲル。

クランクハイトの支配領域では。

未知の感染症。

原因不明の発熱。

急性臓器不全。

細胞崩壊。

様々な病が発生する。

だが皮肉な事に。

パンケアもまた、その土地でしか育たない。

人類は病を避けられない。

病を避ければ薬を失う。

薬を得る為には病の土地へ入る必要がある。

その為、

クランクハイトの縄張りは

世界最大の医療資源地帯

であると同時に、

世界最悪の感染地帯

として知られている。


「取り返さないと駄目だよねぇ……。」

資料を閉じながら灯が嘆いた。

春も同意するように頷く。

「人選はどうします?」

「無明君は救世主が引率すれば行けるけど……。」

灯は言いながらも表情を曇らせる。

春も苦笑した。

「咲さん自体が脆いですからね。流石に無明君が守るとは言え、二つ返事は現実的じゃないんじゃないですか?」

「だよねぇ。」

灯は肩を竦めた。

「一旦、無明君抜きで考えよう。」

机の上に広げられた資料へ視線を落とす。

そこに記されているのは二体のレーゲル。

飢餓のレーゲル――フンガー。

病のレーゲル――クランクハイト。

春が小さく呟く。

「フンガーとクランクハイトですか。」

「ぶっちゃけ、無明君も概念攻撃を斬り刻める訳じゃないしね。」

灯の言葉に春は頷いた。

「犬飼さんが適任ですが、二体任せるのはどうします?」

「私と春でどっちか片付ける?」

春は少し考え込む。

「病のレーゲルなら行けるんじゃないですか?」

「ん? どうして?」

灯が首を傾げる。

春は資料の一部を指差した。

「被害者の死体から検出されたデータを見る限り、要するに発症までが異様に早くて重症化しやすい病原菌をばら撒いているだけですよね。」

「うん。」

「なら病原菌は絶対零度で死ぬんじゃないですか?」

灯は一瞬考えた後、苦笑した。

「あー……発想は良いんだけどさ。」

春もすぐに察する。

「言いたい事は分かります。倒せはするけど、パンケアも全滅するって話ですよね。」

「そうそう。」

灯は頷く。

「病のレーゲルを倒したは良いけど、世界中の医療品が消えましたじゃ笑えない。」

春は肩を竦めた。

「まぁ、俺はもう出来ますけど。」

さらりと言われた一言に灯が顔を上げる。

「ん?」

春は当然のように続けた。

「灯さんなら、一ヶ月もあれば形になるんじゃないですか?」

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