再開
インターホンが鳴った。
「はーい。」
無明は扉へ向かう。
特に何も考えていなかった。
いつもの来客だと思っていた。
扉を開く。
そして。
「……。」
無明の動きが止まった。
目の前に立つ女性を見る。
記憶の底。
二十一年分の時間の向こう側。
忘れるはずのない顔。
「……え?」
女性も驚いたように目を瞬かせる。
「覚えてるの?」
「え?」
無明は言葉を失う。
「いや……なんで?」
女性は少し困ったように笑った。
「白雪さんって人が会ってあげてほしいって言うから来たんだけど。」
「まさか覚えてるとは思わなかった。」
無明は首を振る。
「忘れる訳ないでしょ。」
即答だった。
女性は少しだけ目を見開く。
「凄いね。」
「私、小学生の頃におじいちゃんの施設を少し手伝っただけなのに。」
無明はしばらく黙る。
そして恐る恐る聞いた。
「話せるの?」
女性が笑う。
「話せるよ。」
「はい……。」
無明は自分でも変な返事だと思った。
女性は嬉しそうに続ける。
「べシュルツで無明律人って名前が出た時はびっくりしたよ。」
「大きくなったね。」
無明は少し俯く。
長い沈黙。
そして。
「……捨てられたのかと思ってました。」
小さな声だった。
女性の表情が曇る。
「あー……。」
「ごめんね。」
「おじいちゃんが亡くなっちゃって。」
「その後引っ越したんだ。」
無明は数秒黙る。
それから小さく頷いた。
「そうだったんですか。」
思ったよりも平気だった。
いや。
平気ではない。
でも。
理由があった。
それだけで十分だった。
女性は少し周囲を見回した。
「上がっても良い?」
「え?」
無明は固まる。
数秒遅れて我に返った。
「あ、はい!」
慌てて道を開ける。
その姿に女性は少し笑った。
一方その頃。
灯は満面の笑みでガッツポーズをしていた。
「よし。」
春が嫌な予感を覚える。
「何がですか?」
灯は勝ち誇った顔だった。
「居た。」
「何がですか?」
「咲。」
春が固まる。
「え?」
「居た。」
灯はもう一度言った。
「居たぁ!!」
思わず両拳を握る。
「良かったぁ!!」
春は頭を抱えた。
「何をそんなに喜んでるんですか……。」
灯は真顔になる。
「だってさ。」
「居なかったら私が一生無明君のメンタルケアする羽目になるじゃん。」
春は納得した。
「確かに。」




