ハッピーエンド
「あー……金があり余る。」
灯はソファに寝転びながら嬉しそうに嘆いた。
春は資料から目を離さない。
「犯罪ですけどね。」
「失礼だなぁ。」
灯は不満そうに言う。
「私と犬飼は対策課の最終兵器だよ?」
「高給取りなの。」
「けどさ。」
灯は天井を見上げた。
「土地神殺して報酬百万円。」
「今回の件とか割に合う?」
春は少し考える。
「まぁ……確かに。」
世界最大級の鉱山奪還。
レーゲル討伐。
その危険性を考えれば百万円など誤差だった。
「無明君周りにかなり金使ったなぁ。」
灯がぽつりと呟く。
「カウンセラー。」
「生活指導員。」
「教育担当。」
「色々雇いましたからね。」
春は頷いた。
「本人は友達が沢山出来たと思ってますけど。」
沈黙が流れる。
灯は首を傾げた。
「ん?」
「どうしたの?」
春は資料を閉じた。
「無明君の経歴を見ました。」
静かな声だった。
「無戸籍児。」
「重度の脳障害。」
「話せない事すら認識出来なかった。」
灯は何も言わない。
「神が能力を与えた時に障害が取り除かれた。」
「年齢は二十一歳。」
「でも話せるようになったのは三年前です。」
春は少しだけ目を伏せる。
「精神年齢だけなら三歳児と大差ありません。」
灯は小さく頷いた。
「まぁ……ね。」
春は続ける。
「しかも記憶力が異常に高い。」
「意思疎通出来なかった記憶。」
「見捨てられたと思った記憶。」
「全部残ってる。」
春は溜息を吐いた。
「悲惨過ぎます。」
灯は苦笑する。
「咲様ねぇ。」
「本人は居ないの気付いてますよ。」
「そうなの?」
灯は少し驚いた。
春は頷く。
「勉強教えてるんです。」
「分かります。」
「唯一味方してくれた人が居ないと認める事は。」
春は少しだけ言葉を選んだ。
「裏切るのと同じなんでしょう。」
灯は静かに笑った。
「この前さ。」
「指輪ねだられたから買った。」
春は思わず顔を上げる。
「買ったんですか。」
「買った。」
灯は肩を竦めた。
「居ないって分かってるのにね。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて春が言った。
「まぁ。」
「今は楽しそうですし。」
「職員の人とボードゲームして楽しかったって言ってました。」
灯も頷く。
「だねぇ。」
「良かったと思う。」
春は少し笑った。
「そう言えば。」
「灯さん、仕事あげたんでしたっけ。」
「あー。」
灯も思い出した。
「料理作る仕事ね。」
「この前食べに行ったけど美味しかったよ。」
「従業員も全員職員さんですし。」
「安心ですね。」
春はどこか安心したように言う。
灯は天井を見上げた。
「ハッピーエンドで良いのかな。」
春は少し考える。
そして肩を竦めた。
「そういう事にしておきましょう。」
その時だった。
部屋の扉が開く。
職員の女性が慌てた様子で飛び込んで来た。
「すみません、白雪さん!」
「はい?」
灯が嫌な予感を覚える。
職員は深呼吸した。
「無明君がカタストを食材に使って大惨事です。」
沈黙。
長い沈黙。
灯は天井を見上げる。
春も天井を見上げる。
そして。
「……。」
「……。」
灯がぽつりと呟いた。
「バッドエンド過ぎない?」




