ウルフェレンダーリヒ
「ウルフェレンダーリヒかぁ……。」
灯が資料を見ながら呟く。
春も資料へ視線を落とした。
「簡単なのか分からないですね。」
「いや。」
灯は即座に否定した。
「普通に難しい。」
春は首を傾げる。
「能力は不変ですよね?」
「そこまでは良いんだよ。」
灯は溜息を吐く。
「無明君が斬るから。」
「斬ります?」
春は怪訝そうな顔をした。
「不変のルールを押し付けるレーゲルですよ?」
「いや。」
灯は真顔だった。
「絶対斬るでしょ。」
春は少し考えた。
そして頷く。
「まぁ……確かに。」
二人の中では既に討伐が終わっていた。
「問題は別。」
灯が机へ突っ伏す。
春は嫌な予感がした。
「何かあるんですか?」
「無明君を運用したら痛い目見るから嫌。」
即答だった。
春は思わず吹き出す。
「土地神を食わされた人が言うと説得力が違いますね。」
「いや。」
灯は遠い目をした。
「マジで笑えないから。」
「見てる分には面白い。」
「被害に遭うとヤバい。」
春は反論出来なかった。
実際その通りだった。
「そう言えば。」
春は資料を捲る。
「あそこの土地って何がありましたっけ?」
「世界最大級の鉱山。」
灯が答える。
「あー……。」
春も思い出した。
「あそこ奪われてからスマホの値段三倍になりましたね。」
「そうそう。」
灯は頷く。
「だから取り返したい。」
沈黙。
二人とも分かっていた。
必要なのは無明である。
だが連れて行きたくない。
「どうする?」
灯が聞く。
春は即答した。
「僕が連れて行くのは嫌です。」
「私も嫌。」
灯も即答だった。
再び沈黙。
「一人で行かせる?」
「いや……。」
春は首を横に振る。
「それは駄目でしょ。」
二人とも想像してしまった。
無明単独行動。
絶対に何か起きる。
「じゃあ。」
灯はニヤリと笑う。
「じゃんけんで負けた奴が引率ね。」
数分後。
灯は机に突っ伏していた。
負けた。
完全に負けた。
数日後。
空港。
無明はいつものように咲と会話していた。
当然、周囲から見ると独り言である。
結果。
灯と無明は空港職員に呼び止められた。
「少々よろしいでしょうか。」
嫌な予感しかしなかった。
数十分後。
灯は取調室のような場所に座っていた。
向かいには職員。
隣には無明。
「薬物検査にご協力をお願いします。」
灯は頭を抱えた。
最悪だった。
「いや、だから違うんですって……。」
職員は真剣な顔だった。
無明は首を傾げる。
「何故ですか?」
職員は答えない。
答えられない。
隣で存在しない人物と会話している人間が居るからだ。
「咲様、何故でしょう?」
無明は真面目に頷く。
灯は胃が痛くなった。
そして検査中。
灯には別の問題があった。
無明である。
職員が無明を刺激すると面倒な事になる。
最悪の場合、斬る。
「無明君。」
「はい。」
「大丈夫だからね。」
「はい。」
「斬らなくて良いからね。」
「はい。」
「本当に斬らなくて良いからね。」
「はい。」
灯は人生で初めて、薬物検査官が斬り刻まれないよう細心の注意を払う羽目になった。




