朝顔を咲かせよう
「どうする?」
叶は頭を抱えた。
道徳は失敗した。
「面白いよ!」
灯は満足そうだった。
全く他人事である。
犬飼もニヤニヤしている。
「動物だと食べるとか言い出すしな。」
「植物とか育てさせてみるか?」
叶は呟く。
灯と犬飼が顔を見合わせた。
「お?」
「叶先生が勝つか?」
こうして。
無明の朝顔を咲かせようプロジェクトが始動した。
翌日。
対策課の花壇。
叶は朝顔の種を差し出す。
「無明君。」
「はい。」
「ちゃんと育てられる?」
無明は自信満々だった。
「テレビで勉強しました!」
嫌な予感しかしない。
だが叶は信じることにした。
道徳で学んだばかりだ。
「じゃあ植えてみようか。」
「はい!」
無明は元気よく返事をした。
次の瞬間。
灯油を撒いた。
「何してんの!?」
叶の悲鳴が響く。
無明は不思議そうに振り返った。
「焼畑農業です。」
「テレビで良いって見ました。」
叶は天を仰いだ。
「まぁ……。」
「まぁ……まだ焦るな。」
自分に言い聞かせる。
まだ種は植えていない。
まだ取り返せる。
無明は種を植えた。
今度こそ普通だった。
叶は少し安心する。
「お水もあげないと。」
「そうそう。」
「朝顔さんが可哀想です。」
「いい感じ。」
叶は頷く。
順調だった。
本当に順調だった。
無明が大きな袋を持って来るまでは。
「ん?」
叶が首を傾げる。
無明は袋を開いた。
「よいしょ。」
何かが地面に落ちた。
腹這いのカタストだった。
手足は無かった。
「えっと……。」
叶の思考が止まる。
無明は満面の笑みだった。
「自動水やり機です!」
「……え?」
「買おうと思ったんですが、どこに売ってるか分からなかったので作りました!」
カタストの傷口から血が滴る。
ぽた。
ぽた。
ぽた。
花壇へ落ちていく。
沈黙。
長い沈黙。
無明は誇らしげだった。
「傷口から自動的に出ます!」
「便利です!」
そして胸を張る。
「えへへ。」
「頭使いました。」
「褒めて下さい。」
叶は口を開く。
閉じる。
もう一度開く。
閉じる。
限界だった。
「………。」
頑張って言葉を絞り出す。
「よ……。」
無明の目が輝く。
「よ?」
「よかった……ね……。」
負けた。
完全に負けた。
廊下の向こう。
灯は壁に寄り掛かりながら笑っていた。
「ははははは!」
犬飼は地面を叩く。
「駄目だ!」
「叶先生でも勝てねぇ!」
無明は首を傾げた。
「違うんですか?」
叶は静かに空を見上げた。
朝顔はまだ芽を出していない。
だが。
自分の心は完全に折れていた。




