叶先生
ゆるすということ
けんたくんは、だいじにしていた けしごむを もっていました。
あるひ、ともだちの たろうくんが けんたくんの けしごむを つかいました。
すると、あやまって おとしてしまい、けしごむは かけてしまいました。
けんたくんは とても かなしくなりました。
「なんで こわしたの。」
けんたくんは おこりました。
たろうくんは すぐに あやまりました。
「ごめんね。」
「わざとじゃ なかったんだ。」
けんたくんは まだ かなしいきもちでした。
でも、たろうくんが ほんとうに はんせいしていることが わかりました。
そこで けんたくんは いいました。
「こんどから きをつけてね。」
たろうくんは うれしそうに うなずきました。
叶は教科書を閉じた。
「無明君は、許すことって大切だと思う?」
春は諦めた。
灯は笑うだけだった。
犬飼は論外だった。
消去法で叶が道徳を担当している。
「思います!」
無明は元気よく答えた。
叶は少し安心する。
「うん。」
「謝ったら許してあげるのも大事だからね。」
「分かりました!」
良い返事だった。
叶は頷く。
「じゃあ、無明君がけんた君の立場だったらどうする?」
無明は少し考える。
「消しゴムが壊れたのは悲しいです。」
「うん。」
「でも許します。」
「そうそう。」
叶は笑顔になる。
今回は大丈夫そうだった。
「斬り刻むのは我慢出来る?」
「はい!!」
力強い返事だった。
叶は思わず笑う。
「うんうん。」
良い傾向だ。
本当にそう思った。
「五秒待ちます!」
叶の笑顔が止まる。
「え?」
無明は真面目な顔だった。
「五秒あれば謝れますよね?」
沈黙。
叶はゆっくり瞬きをする。
「ん?」
無明はさらに考え込む。
「あ。」
嫌な予感がした。
「許せないことだったらどうしましょう。」
「え?」
「謝られても許せないかもしれません。」
「そ、そうだね……。」
叶は慎重に頷く。
無明は真剣だった。
数秒考え込む。
そして。
「分かりました。」
叶は少し安心する。
「本当?」
「はい。」
無明は自信満々だった。
「先に声帯を斬ります。」
沈黙。
「そうすれば謝れません。」
さらに沈黙。
「我慢せずに斬り刻めます。」
完全な沈黙。
廊下の外。
灯が吹き出した。
「ぶっ……!」
犬飼も腹を抱える。
「駄目だ!」
「ハズレねぇわ!」
叶は額を押さえた。
頭痛がする。
灯は壁にもたれながら笑い続ける。
「春より早く失敗したじゃん。」
「だな。」
犬飼も頷く。
叶は静かに教科書を閉じた。
そして遠い目をする。
「許すって難しいね……。」




