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道徳って難しいね

はしのうえのおおかみ

あるひ、おおかみが はしを わたろうとしていました。

すると むこうから うさぎが やってきました。

おおかみは おおきなこえでいいました。

「おい、どけ!」

うさぎは こわくなり、あわてて みちを ゆずりました。

おおかみは とくいそうに はしを わたります。

そのあと、おおかみは くまに あいました。

くまは おおきなこえでいいました。

「おい、どけ!」

おおかみは こわくなって みちを ゆずりました。

そのとき、おおかみは かんがえました。

「うさぎも こんな きもちだったのかな。」


春は絵本を閉じた。

「では、無明君。」

「はい。」

「このお話を読んでどう思いましたか?」

無明は少し考える。

「んー。」

そして素直に答えた。

「オオカミさん怖いですね。」

「そうですね。」

春は頷く。

「クマさんも怖いです。」

「そうですね。」

今のところは問題ない。

春は安心した。

「無明君なら、怖い言葉を使われたらどうしますか?」

無明は首を傾げる。

「咲様が嫌がるので斬り刻みます。」

沈黙。

春は数秒固まった。

「……。」

無明は真面目な顔だった。

「オオカミさんは怖いです。」

「クマさんも怖いです。」

「なので両方斬り刻みます。」

春は頭を抱える。

「えっと……。」

無明はさらに続けた。

「クマさんは美味しいってテレビで見ました。」

嫌な予感しかしない。

「なのでクマさんは食べます。」

「……。」

「この前教えてもらった一石二鳥ですね。」

春は遠い目をした。

「無明君。」

「はい。」

「そういう話ではないんです。」

無明は不思議そうに首を傾げる。

「違うんですか?」

「違います。」

春は必死に言葉を探す。

「もっとこう……。」

「相手の気持ちを考えるお話なんです。」

「なるほど。」

無明は真剣に考え込む。

春は少しだけ期待した。

しばらく沈黙が流れる。

そして。

「あ。」

無明が顔を上げた。

「分かりました。」

春は安堵する。

「本当ですか?」

「はい。」

無明は自信満々だった。

「オオカミさんも食べないとですね。」

春の表情が固まる。

「……え?」

「クマさんだけ食べるのは不公平です。」

沈黙。

長い沈黙。

廊下の隅で見物していた灯が吹き出した。

「ぶっ……!」

犬飼も耐え切れなかった。

「駄目だ……!」

二人は腹を抱えて笑い出す。

「ははははは!」

「待て……っ!」

「公平ってそこじゃねぇ!」

地面へ転がりながら笑う二人を見て、無明は首を傾げた。

「違うんですか?」

春は静かに教科書を閉じた。

そして空を見上げる。

「道徳って難しいですね……。」

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