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エヒト  作者: ルイ
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自分を見て欲しい

「なんで、お兄さんはできるのに」


聞き慣れた言葉だった。


「成績も部活も、何もできてないじゃん。お兄さんは文武両道で、生徒会長なのに」


誰も、自分の話をしない。


その日々に耐えられなくなって、いつの間にか部屋から出なくなっていた。


ある日、兄に買い物へ行こうと誘われた。


鬱陶しかったが、断る理由も見つからず、仕方なくついていくことにした。


帰り道。


居眠り運転の車が、こちらへ突っ込んできた。


死にたくない、と思った。


けれど体は動かなかった。


衝撃。


視界が弾ける。


――目を開ける。


生きていた。


目の前には、血。


その中心に、兄がいた。


崩れた形のまま、動かない。


……ほっとした。


これで、自分を見てもらえる。


その夜は眠れた。


けれど、途中で目が覚めた。


廊下の向こうから、両親の声が聞こえる。


――あいつが死ねばよかったのに。


思考が止まる。


なんで。


なんで、死んでまで邪魔をするんだ。


そして、ある日。


神が現れた。


最初の奇跡で、人口の一割が消えた。


そして、願えば力を与えると告げた。


普通なら信じない。


でも、人が消えたのは事実だった。


願った。


自分を見てほしい。


兄のようになりたい、と。


それからは、うまくいった。


皆が自分を見る。


順調だった。


――順調だと、思い込んでいた。


見られていないことに、気づかないふりをしていた。


でも、もう誤魔化せなかった。


そんな時、テレビで見た。


カタストと戦う、一人の女性。


嫉妬した。


同時に、思いついた。


ああなれば、見てもらえるんじゃないか。


強い感情が動く。


なりたい。


その瞬間、力が流れ込んできた。


成功した、と思った。


それからは、カタストを個人的に倒す日々。


称賛の声。


正直、気分は良かった。


……でも、おかしい。


真似をしないと話せない。


いや、違う。


元の自分を、思い出せない。


結局、自分は見られていない。


それでも、欲求は消えなかった。


カタストと戦うのを、やめられない。


ある日。


「ねぇ、君」


声をかけられる。


白雪灯だった。


反射的に、兄の真似をする。


名前を聞かれて、一ノ瀬蒼と答えた。


灯は、わずかに目を細める。


「今、誰の真似してるの?」


心臓が跳ねる。


気づかれた。


冷や汗が止まらない。


「少し素に戻ったね。そんなに怖がらなくていいよ」


やわらかい声。


「私は、君自身と話してみたいな」


言葉が出ない。


自分を見てもらえるはずなのに。


何も言えない。


「難しいか。じゃあ、ゆっくりでいい」


一歩、距離を取る。


「時間をかけていこう」


その日から、彼女と関わるようになった。

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