何を願った?
「灯さんは、何を願ったんですか?」
君が尋ねる。
白雪灯は少しだけ間を置いて、ゆっくり椅子に腰を下ろした。
「気になるの? 別に話してもいいけど」
軽い調子のまま、視線だけがわずかに遠くを見る。
「神様の力ってさ、“願いを叶える”んじゃなくて、“届かせない形で与える”って言われてるよね」
「……人によるんじゃないですか」
君は小さく否定する。
「君の願い、本質まで届いてる?」
言葉が詰まる。
「……それが答え」
淡々とした声だった。
少しの沈黙のあと、灯は続ける。
「昔ね、家族で海外に行ったの。そこで戦争に巻き込まれて……家族、みんな死んだ」
「……そうなんですか」
「その日から考えてた。どうすれば、この理不尽を変えられるのか」
指先で椅子の縁をなぞる。
「三年前、最初の奇跡で力をもらった」
ほんのわずかに笑う。
「これで変えられるって思ったよ。世界ごと」
そこで、笑みが消える。
「でも実際は逆だった。変える力じゃなくて、壊す力だった」
視線が戻る。
「おかげで“怖い人”扱い。テレビで見たでしょ。あれ、監視も兼ねてるから」
「……はい」
何も言えず、君は頷くだけだった。
「でね、ある日現場に行ったら、もう戦ってる人がいてさ」
少しだけ楽しそうに目を細める。
「動きが私にそっくりで、びっくりした」
「それは……」
「話しかけても普通に返すし」
灯は首を傾げる。
「君のお兄さんならそうしたから?」
君は答えない。
「でもさ」
一歩だけ距離が近づく。
「君自身も、私のこと拒んでないよね」
「……」
「だから、誰かの真似なんてしなくていい」
やわらかく、でも逃がさない声で。
「私は、君のままでも好きだよ」
沈黙が落ちる。
やがて、君が小さく口を開く。
「……もう、叶ってるかもしれないです」
「……ん?」
灯がわずかに眉を動かす。
その言葉の意味を測るように、静かに見つめていた。




