べシュルツ
全人類の刻印が光り始める。
次の瞬間。
頭の中へ直接声が響いた。
「さぁ、人類史上初のべシュルツを始める。」
白雪灯の声だった。
世界中の人々が空を見上げる。
仕事中の者も。
学校に居る者も。
病院に居る者も。
誰一人として例外ではない。
灯は静かに続けた。
「議題を話そう。」
一拍置く。
「白雪灯。」
「犬飼優人。」
「一ノ瀬春。」
「無明律人。」
名前が一人ずつ告げられる。
「この四名で神との聖戦を行う。」
世界が静まり返る。
そして灯は小さく笑った。
「議決をする前に少し話そうか。」
その声は妙に明るかった。
「神の逆鱗に触れたら人類滅んじゃうね。」
軽い口調だった。
だが内容は重い。
「怖いね。」
「当然反対だろうね、皆。」
灯は否定しない。
恐怖も不安も当然だと言わんばかりだった。
「けどさ。」
「大人しくしていれば安全だなんて思ってない?」
「それこそ幻想だ。」
声が少しだけ低くなる。
「最初の奇跡で神は人類の一割を殺した。」
「カタストが現れた。」
「確認出来ているだけでも、神が殺した人数は二十億を超える。」
世界中の人々が黙って聞いている。
「そして記憶にまだ新しい理不尽ゲーム。」
灯は問いかけた。
「何もしなければ安全?」
「いつまで?」
「明日、もし仮に神が気まぐれを起こしたら何人死ぬ?」
誰も答えない。
答えられない。
灯は静かに続ける。
「いつからだろうね。」
「死体を工場でゴミみたいに焼くようになったのは。」
「いつからだろうね。」
「刻印を見比べながら人と関わるようになったのは。」
優しい声だった。
だからこそ痛かった。
「気付かなかったとは言わせない。」
「気付かないふりをしていたんだ。」
「人類全員が。」
沈黙。
灯はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「なら今こそ目を向けよう。」
「日常を守る為に。」
「恋人を守る為に。」
「家族を守る為に。」
「そして何より、自分自身を守る為に。」
灯は笑う。
まるで友人へ話しかけるように。
「もう一度宣言する。」
「私達四人は神をぶち殺す。」
その瞬間。
世界中が静まり返った。
「投票を始めよう。」
べシュルツの賛成と反対は、声で宣言する訳でもなければボタンを押す訳でもない。
単純な話だった。
心が賛成すれば賛成。
反対すれば反対。
理屈も理論も存在しない。
完全なる感情論。
だからこそ。
白雪灯の刻印が青く発光した。
可決されたのだ。
灯は振り返る。
「これ、何割の人間が賛成したの?」
春は興味なさそうに肩を竦めた。
「可決されたなら良いんじゃないですか?」
灯は苦笑する。
犬飼も呆れたように息を吐いた。
その時だった。
灯が空を見上げる。
「確かにね。」
「そうこう言ってる間に降りてきたね。」
口元に笑みを浮かべる。
「神様とご対面だ。」




