最強の一角
「ここは?」
犬飼が周囲を見回しながら問いかけた。
「何処だと思う?」
灯は逆に聞き返す。
犬飼は砂しかない大地を見渡した。
「知らねぇよ。変な土地だな。何も無いっていうか……地面も砂だし。」
少し首を傾げる。
「けど、何か変だぞ?」
灯は小さく笑った。
「無明を神との聖戦に連れて行くか、正直迷ってるんだよね。」
「あー……確かに。」
犬飼は苦笑する。
「味方ごと斬るかもしれないって話だろ?」
「それもある。」
灯は地面へ視線を落とした。
「でも、使い方次第だとも思う。」
犬飼は肩を竦める。
「なら問題無いんじゃねぇの?」
灯は足元の砂を見つめたまま言った。
「ここって、元は普通の住宅街だったんだよ。」
犬飼の眉が動く。
「ん?」
「無明が前に住んでた場所。」
灯は静かに続けた。
「カタストが大量発生する地域だったから一般人は居なかった。でも犯罪者の隠れ家には丁度良かったみたい。」
犬飼は周囲を見回す。
果てしなく続く砂地。
建物の残骸すら見当たらない。
「いやいや、可笑しくないか?」
犬飼は地面を指差した。
「何も無いぞ?」
少しの沈黙。
灯は遠くを見つめる。
「昔、ここに逃げ込んだ犯罪者が居た。」
「……。」
「その犯罪者が無明に言ったんだ。」
灯の声は淡々としていた。
「『咲なんて居ない。頭のおかしい奴だ』って。」
犬飼は黙る。
「その結果。」
灯は砂を一握り掬い上げた。
「周囲全てを斬り刻んだ。」
さらさらと砂が零れ落ちる。
「砂になるほどね。」
犬飼はしばらく無言だった。
やがて小さく口を開く。
「本当か?」
「さぁ。」
灯は肩を竦めた。
「でも正直、私達は無明の事を過小評価してたと思う。」
犬飼は苦笑した。
「否定はしないな。」
灯は手の中の砂を見つめる。
「最強の一角と呼ばれる由縁なら、この土地が証明してる。」
砂が風に攫われていった。




