敵
「咲様ー、買い物しますか。」
無明には対策課での任務が存在しない。
運用不可能。
上層部がそう判断したからだ。
その代わりとして、対策課は無明へ広すぎる一軒家と生活資金を与えている。
理由は単純。
出来るだけ人里から離しておきたいからだ。
「咲様、やはり考えたのですがブロック状に斬り刻むのは咲様の目を汚す可能性があるかと。」
無明は真剣な顔で考え込む。
「なので、内臓と骨だけをズタズタにしました!!」
その声には達成感すら混ざっていた。
「ん? なんで出来るのかですか?」
無明は不思議そうに首を傾げる。
「咲様の敵だからです!」
無明の周囲には、動かなくなったカタストの群れが転がっていた。
外傷は少ない。
だが中身だけが徹底的に破壊されている。
無明が住んでいるこの地域は、カタストが大量発生する危険区域だった。
かつて春がライセンスを死体から盗み、活動していた場所でもある。
既に一般人は一人も居ない。
だからこそ、無明を置くには都合が良かった。
無明は気にした様子もなく歩き出す。
「咲様ー。買い物終わりましたね。」
向かった先は店ではない。
対策課が用意した食料貯蔵庫だ。
その帰り道、無明は満足そうに周囲を見回した。
「けど、ここは良いですね。人間が居なくて。理想の世界です。」
静かな廃墟の街を歩きながら、無明は小さく笑う。
「世の中は耳障りで目障りな物が多すぎます。」
だが次の瞬間、その表情は穏やかな物へ変わった。
「まぁ、咲様が居るからバランスは取れているのですが。」
この地域のカタストは数も多く、力も強い。
だが無明にとって脅威ではない。
彼にとって本当の敵とは、 咲様を傷付ける物と、 見捨てる人間の方だった。
無明は隣を見るように視線を向ける。
「咲様は幸せですか?」
返答を聞いたように安心した顔を見せた。
「幸せなら良かったです。」
無明は柔らかく笑う。
「まぁ、咲様は幸せであるべきですし、守られるべき存在なので当然ですけど。」
そして少しだけ不思議そうに首を傾げた。
「ん? どうしてなのかですか? 珍しく可笑しな事を聞きますね」
無明は当然のように答える。
「僕の味方だからに決まってるじゃないですか。」




