無明律人
対策課には最強が三人居る。
二人は説明するまでもない。
灯は犬飼へ声を掛けた。
「犬飼、頼みたい事がある」
「パシっといてなんだ。」
「出来る限り不自然があっても黙ってて。」
犬飼は意味が分からないまま頷く。
「ん? おう。」
灯はそのままインターホンを押した。
しばらくして扉が開く。
「はーい。どちら様ですか?」
現れたのは無明律人だった。
灯が軽く手を上げる。
「白雪と犬飼です。無明君と同じ対策課。」
無明は二人を見た後、視線を横へ向けた。
「咲様ー。お客様が来ましたけど上げて良いですか?」
犬飼が眉を顰める。
「不自然ってこれ?」
「違う。」
灯は即座に否定した。
無明は何かへ耳を傾けるように小さく頷く。
「あ、上がって良いそうです。」
犬飼はそこで初めて違和感を覚えた。
だが灯が言った通り、口を挟まない。
部屋へ通された後、灯は本題を切り出した。
「単刀直入に言う。神様を殺すのを手伝って欲しい。」
無明は少し考えるような仕草を見せる。
「どうしますか? 咲様」
灯が静かに問い返す。
「君の意見は?」
「咲様の意見次第です。」
数秒後、無明は納得したように頷いた。
「うーん、分かりました……咲様が言うなら仕方ないですね。」
「手伝ってくれるの?」
「はい」
灯が礼を言うと、無明は不思議そうに首を傾げた。
「感謝するのなら咲様にですよ。咲様は皆に優しいですからね」
灯は空間へ向けて微笑む。
「咲さんもありがとう」
だが無明はすぐ困った顔になった。
「けど、咲様を連れてくのは駄目ですし、それだと僕は役立たずです。」
犬飼が口を挟む。
「どういう事だ?」
「僕の能力は咲様を守る事でしか使えません。」
その直後、無明が露骨に嫌そうな顔をした。
「えー……無茶言わないで下さいよ咲様。」
犬飼は眉を顰める。
「なんて言ったんだ?」
「え? いやだから頑張って守ってって。聞いてなかったんですか?」
犬飼は言葉に詰まる。
「いや……その……」
「犬飼シャラップ。」
灯が即座に遮った。
「交渉は思ったよりスムーズだったし、今日はもう帰るね。」
「あ、お見送りしますね。」
無明が二人を外まで送る。
そして姿が見えなくなった所で、犬飼が深く息を吐いた。
「あー……悪かった。」
「全く勘弁してよね」
灯は疲れたように肩を落とす。
犬飼は頭を掻きながら呟いた。
「けど、死んだ恋人を今でも引きずってんだな。」
「居ないけどね」
「いや、そりゃ死んでるからな」
灯は淡々と告げる。
「最初から居ないよ。咲なんて人間。」
犬飼が固まった。
「は?」
灯はそのまま話を続ける。
「本題に入ろうか。何故彼が必要か。」
犬飼は気を取り直す。
「あー、そうだな。ヴルカーン戦に連れてかなかったのは不思議だし」
「それは……分かるでしょ」
「あ、確かにな」
犬飼は即座に納得した。
灯は小さく息を吐く。
「神に攻撃が効くか分からない以上、彼は必須だ。」
「火力高いのか?」
「彼の能力は危害排除。咲に危害を及ぼす物を斬り刻む」
犬飼は軽く頷く。
「ふーん。その斬撃の威力が凄いんだな。」
「そういう次元の話じゃない。」
灯は犬飼を見る。
「正確に言えば斬るんじゃない。斬ったと言う結果を植え付けるんだ。」
「分かりやすく言え」
「何でも斬れる」
犬飼が呆れたように笑う。
「無敵だろ」
「概念系能力は制約が多いよー。」
灯は指を折りながら説明する。
「推測する限りだと、咲……つまり最愛の弱い女の子を守る目的でしか使えない。」
「制約になってんのか?」
「後は斬れると確信出来ないと斬れない。最後に、多分罪悪感があっても斬れないね。」
犬飼は露骨に顔を顰めた。
「使い物にならなくね?」
灯は静かに笑う。
「普通の精神構造ならね。」
そして小さく付け加えた。
「彼は“咲様の敵は斬れて当然、斬れない方が可笑しい”って思考回路なんだよ。」
犬飼は数秒黙り込む。
「うん……制約になってなくね?」




