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ヴァイスハイト

叶と全与の視線が交差する。

叶は静かに口を開いた。

「――私の目を見て。」

全与は黙ったまま叶を見つめ返す。

時間が流れる。

誰も動かない。

およそ三十秒。

静寂の中、叶が淡々と告げた。

「私に服従すると言いなさい。」

全与の口がゆっくり動く。

「……服従します。」

叶の能力の真価。

それは洗脳そのものではない。

洗脳状態で“発言させた命令”を、絶対遵守として脳へ刻み込む事。

言葉にした時点で、命令は相手自身の意思へ変換される。

叶は全与を見下ろす。

「神について知ってる事、全部教えて。」

全与は苦しそうに顔を歪めながら、口を開いた。

「……ヴァイスハイト……」

「ヴァイスハイト!?」

春が珍しく声を荒げる。

犬飼と叶も驚いた。

だが、それは単語に対してではない。

全与の首が、不自然な音を立てながら一回転した。

空気が凍り付く。

犬飼だけが辛うじて視認する。

――何かが通り過ぎた。

そして、全与の首を捻った。

声が響く。

「君達とは、べシュルツで過半数を取った暁に戦ってあげるよ。」

全員が反射的に声の方向を見る。

だが。

そこには誰も居なかった。

沈黙。

最初に口を開いたのは犬飼だった。

「……ヴァイスハイトってなんだ。」

犬飼が春を睨む。

春は僅かに表情を強張らせたまま答えた。

「絶滅危惧種の、世界一美しいとされる花です。」

「別名、“女神の花”。」

犬飼は眉を寄せる。

「それが何だってんだよ。」

春は静かに続けた。

「その花は蜜を地面へ垂らします。」

「猛毒の蜜です。」

「雨が降れば毒は広がり、土地を汚染する。」

「周囲の草花や木々は腐り、やがて何も生えなくなる。」

春は小さく息を吐いた。

「森の中、何も生えていない場所に、一輪だけ美しい花が咲くんです。」

犬飼の表情が変わる。

「……おい待て。」

「その名前を出したって事は……」

春はゆっくり頷いた。

「神はヴァイスハイトの蜜を摂取した。」

「そう考えるのが妥当でしょう。」

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