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天賦の才
「ねぇ」
愛宮叶は、廊下の隅で足を止めた職員に声をかける。
ゆっくり顔を上げさせ、視線を合わせる。
「はい……」
男の目から焦点が抜ける。言葉だけが、素直に出てくる。
叶は小さく息を吐いた。
いつも通りの反応。問題はない。
「普通はこうなるんだけどなぁ。この前、私に渡すはずの書類、押し付けたでしょ」
頷きが返る。
「その人について、知ってること全部」
少しだけ声を低くする。
「名前は……犬飼優人」
「犬飼優人」
口の中で転がす。似合わない、と先に思った。
「何を願ったの?」
問いはまっすぐ落ちる。
「……何も」
一拍、空く。
「何も?」
叶の眉がわずかに動く。
そんなはずがない。効かないなら、理由があるはずだ。
男の声は、変わらず平坦だった。
「天賦の才があるため、願う必要がない。神に忌み嫌われる存在」
「……何それ、チート?」
思わず笑う。けれど目は笑っていない。
「それゆえ、神の恩恵を受けない。むしろ、弾く」
「へぇ……そういう事」
短く呟いて、視線を外す。
「もういいよ」
「……はい」
男はそのまま歩き去る。振り返らない。
静けさが戻る。
「犬飼優人、か」
ひとり、同じ名前をもう一度なぞる。
「どうしよっかなぁ……」
唇の端がわずかに上がる。
「楽しみ」




