死闘
「犬飼が寝坊したせいで、到着遅れたじゃん」
火山へ向かう道中、白雪灯が呆れたように言った。
犬飼は悪びれもせず肩を竦める。
「緊張で寝れなかったんだよ」
「カジノ行ってましたよね?」
春が即座に突っ込む。
「…………」
犬飼は視線を逸らした。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、灯はため息を吐く。
「社会不適合者すぎる」
「うるせぇ」
そんなやり取りをしている内に、三人は火山地帯へ辿り着いていた。
赤黒い岩肌の奥。
巨大な影がゆっくりと身を起こす。
ヴルカーン。
岩で構成された巨体。その全身から、灼熱が脈動していた。
ヴルカーンの視線が、白雪灯へ向く。
本能的な驚異。
だが。
戦いの火蓋を切ったのは、ヴルカーンの灼熱でも白雪灯の極寒でもない。
犬飼優人の、ただの蹴り。
轟音。
ヴルカーンの皮膚にヒビが走る。
本来なら有り得ない。
相手は最強のカタスト。
だが、神由来である以上、犬飼の前では例外じゃいられない。
接触した瞬間、その硬度は著しく低下する。
ヴルカーンが激怒した。
周囲が一瞬で灼熱へ染まりかける。
「ここは私の温度だよ」
灯が静かに告げる。
次の瞬間。
白雪灯のアイスツァイトが世界を塗り替えた。
極寒。
ヴルカーンの灼熱と相殺し合ってなお、世界の平均気温が五度低下する。
「火力担当は任せたよ、犬飼」
灯が楽しそうに笑う。
犬飼は肩を回しながら適当に返した。
「エアコン担当は任せたわ、白雪」
戦況は優勢だった。
灯だけでは足りなかった火力を、犬飼が埋めている。
「360度砲!!」
犬飼の回転蹴りがヴルカーンへ炸裂する。
灯が呆れたように目を細めた。
「今の、一回空振ったの誤魔化しただけだよね?」
「うるせぇ」
「普段蹴る時に技名とか言わないでしょ。小賢しいよ」
「…………」
犬飼は黙って視線を逸らした。
図星だった。
ヴルカーンが痺れを切らしたように拳を振り上げる。
だが、その瞬間。
「火山って動かないんだよ」
灯が指を鳴らす。
極寒がヴルカーンの身体を覆い、巨体が凍り付いた。
停止した一瞬。
犬飼は迷わず踏み込む。
全力の拳がヴルカーンへ叩き込まれた。
衝撃で空気が震える。
灯が少し考えるように首を傾げた。
「犬飼っぽく、“アイスフェッセル”とか言えば良かったかな?」
「擦るなよ」
「ゲバルト」
犬飼が拳を叩き込む。
春が真顔で首を傾げた。
「普通に殴るのと何が違うんですか?」
「気分が違うんだよ!!」
灯は堪え切れず吹き出した。
「なんか死闘っていうより、“それっぽく技名言ってみるだけ”になってるね」
「帰ったら叶さんに醜態報告しよっか」
「良いですね」
春まで頷く。
犬飼は露骨に嫌そうな顔をした。
「ヴルカーンの仕業にして殺すぞ」
三人の軽口とは裏腹に。
終末級の戦いは、更に激しさを増していく。




