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討伐したら

「ねぇ、犬飼」

 隣を歩きながら、叶が声をかける。

 犬飼はスマホから目を離し、面倒そうに返事をした。

「なんだよ」

 口調はいつも通りだった。

 だが最近、叶が妙にそっけなかったせいか、どこか機嫌は良さそうだった。

 そんな犬飼を見ながら、叶は少しだけ言いづらそうに口を開く。

「ヴルカーン討伐さぁ、やる気出る?」

 犬飼は鼻で笑う。

「やる気も何も、サクッと行って勝って、土産買って帰ってくるだけだが?」

「観光じゃないんだから」

 叶が呆れたようにツッコむ。

 犬飼は気にした様子もなく続けた。

「紅茶がオススメらしいけど、いる?」

「あー……貰おうかな」

 そこまで言ってから、叶はハッとしたように首を振る。

「じゃなくて!」

 犬飼が小さく吹き出す。

「どうした?」

 叶は少し真面目な顔になった。

「いや、最強のカタスト討伐だよ? 一応」

「まぁまぁ」

 あまりにも軽い返事だった。

 叶は困ったように視線を逸らす。

「あー……うーん」

 犬飼は黙って続きを待つ。

 叶は何度か迷うように唇を動かしたあと、小さく呟いた。

「ヴルカーン倒すのって、名誉な事じゃん?」

「まぁ、そうだな」

「だから、その……」

 叶は一度深呼吸をする。

 そして勢いで言い切った。

「ご褒美として、討伐したら付き合ってあげよっか?」

 犬飼の動きが止まる。

「……は?」

 叶はわざと平然とした顔を作る。

「だから、恋人になろっかって」

「…………」

 犬飼は数秒、完全に固まっていた。

 その反応が面白かったのか、叶は少し笑いながら顔を覗き込む。

「照れてんの?」

 犬飼はようやく眉をしかめた。

「頭沸いてんのか?」

 叶は満足そうに頷く。

「絶対そう言うと思った」

 犬飼は何か言い返そうとして、結局黙り込む。

 妙な沈黙が落ちた。

 やがて犬飼が視線を逸らしたまま、小さく口を開く。

「……ヴルカーン倒したらさ」

 叶が瞬きをする。

「ん?」

 犬飼はぶっきらぼうに続けた。

「あの部屋、片付ける」

 叶の表情が僅かに変わる。

「……いいの?」

 犬飼は面倒そうに肩を竦めた。

「一人だとダルいから、手伝え」

 そして誤魔化すように笑う。

「引き払って浮いた金でパチンコしよーっと」

 叶は少しだけ目を細めた。

「……そっか」

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