日常
休日の朝。
灯はソファに寝転がったまま、春へ声をかけた。
「春、休日だし出かけない?」
春は読んでいた資料から目を離す。
「良いですけど」
特に理由を聞くこともなく立ち上がった。
二人は街へ出る。
空は晴れている。
人通りもある。
子供の笑い声も聞こえる。
一見すれば平和な街並みだった。
しばらく歩いた後、春が口を開く。
「それで、何をするんですか?」
灯は前を向いたまま答えた。
「散歩」
「……はぁ」
そのまま無言で歩き続ける。
やがて灯が足を止めた。
「どう思った?」
春は周囲を見回す。
行き交う人々。
開いている店。
談笑する学生。
どこにでもある日常。
「別に何も」
「本当に?」
「変わらない日常です」
灯は小さく笑う。
「コンビニ行ってお昼ご飯買おっか」
二人は近くのコンビニへ入り、おにぎりを一つずつ買った。
店を出て、適当なベンチに座る。
包装を開けながら、灯が呟いた。
「これさ、五百円超えたよね」
「仕方ないですよ。カタストが居るせいで物流がほとんど機能してませんし」
春は淡々と答える。
灯はおにぎりを一口食べながら、空を見上げた。
「今日のニュース覚えてる?」
「銀行強盗ですよね」
「手ぶらの強盗だったけどね」
「刻印のレベルが高かったんでしょう。命令されれば死ぬしかないんですし」
まるで天気の話でもするような口調だった。
灯は少しだけ目を細める。
「テーマパーク行こうか」
そのまま二人は電車に乗り、テーマパークへ向かった。
アトラクションに乗り、食べ歩きをして、歓声の中を歩く。
周囲には笑顔が溢れていた。
気づけば、空は茜色に染まっている。
「帰ろっか」
「はい」
テーマパークを後にし、橋の上を歩く。
その時だった。
一人の人間が、橋から飛び降りた。
だが。
誰も足を止めない。
悲鳴も上がらない。
まるで小石でも落ちたかのように、人々は歩き続ける。
春は川を見下ろしながら口を開いた。
「止めないんですか?」
灯は前を向いたまま答える。
「春は止める気あったの?」
「……その人の人生を背負えませんし」
春の返答に、灯は静かに頷いた。
「職を失って、最後に来るには良い場所だもんね。テーマパークって」
橋の下へ視線を落とす。
「さっきの人も、家族との思い出でも思い出しながら来たのかな」
「共感して悲しめるほど、今の人類に余裕は無いと思います」
灯は苦笑する。
「そう。これが日常」
夕焼けに照らされながら、灯は呟いた。
「神様が作り上げた理想の世界だ」
春は特に表情を変えない。
「もう慣れましたし」
「三年で慣れたよね、皆」
「べシュルツは全人類の過半数が必要です。神と戦うなんて提案、誰が賛成するんですか?」
現実的な言葉だった。
灯は少しだけ考える素振りを見せる。
「それは……なんとかするよ」
珍しく歯切れが悪い。
春は小さく目を細めた。
「珍しく弱気ですね」
すると灯は、不満げに頬を膨らませる。
「やるって言ったらやるのー」




