とんでも理論
「ちょっとちょっとちょっと!!」
パチンコ店の爆音の中、叶が声を張り上げる。
隣の台に座る犬飼は、画面を見たまま拳を握った。
「おっしゃー!!」
「聞けや!!」
叶が肩を揺さぶる。
犬飼はようやく顔を向けた。
「なんだよ」
「なんでヴルカーンの討伐隊に入ったの!?」
「ラッシュ入れ!!!」
犬飼がレバーを叩く。
数秒後。
「あ……外した」
犬飼の顔から一気に感情が消える。
叶は呆れた顔でため息を吐いた。
「オイコラ社不。耳付いてんのか」
「付いてる付いてる」
犬飼は椅子に深く座り直す。
「で、何?」
「ヴルカーン討伐隊に入るとか正気?」
「正気じゃなくなったわー今ので」
犬飼は真顔で台を見つめる。
「やってらんねぇ」
「パチンコやめろや」
「やめねぇよ」
即答だった。
周囲の騒音の中、叶は少しだけ真面目な顔になる。
「生きて帰れる保証ないでしょ」
犬飼はそこで初めて、妙に真剣な顔をした。
「よく聞け?」
「……うん」
「ヴルカーンと戦って生き残る確率が五割だとする」
叶が眉を寄せる。
「そうなの?」
「俺は今、五割を外した」
犬飼は真顔のまま続けた。
「つまり次は確実に当たる。だから生き残る」
沈黙。
叶はゆっくり口を開く。
「算数出来る?」
「哲学だから」
「マジでなんなの……」
犬飼はしばらく叶の顔を眺めていた。
「……うーん」
「何。さっきから人の顔じっと見て」
「いや、似てねぇな」
「誰に?」
犬飼は軽く視線を戻す。
「俺の妹」
叶が少しだけ目を丸くした。
「妹いたんだ。今度会わせてよ」
「死んでっから」
空気が一瞬だけ止まる。
パチンコ店の騒音だけが響いた。
「あ……ごめん」
「別に」
犬飼は興味なさそうに肩を竦める。
「白雪がさ。俺がお前を妹と重ねてるとかほざいてたんだけど」
犬飼は改めて叶を見る。
「こんなチンチクリンのどこが似てんだ?」
「マジで殺そうかな」
叶が真顔で呟く。
犬飼は吹き出すように笑った。
だが次の瞬間、叶の表情が少し真剣になる。
「……私も行くよ」
犬飼の視線が僅かに動く。
「能力、役に立つでしょ?」
「効くわけねぇだろ」
即答だった。
「火山が人に恋するか?」
「もしかしたらはあるじゃん」
「そう思うなら外の石ころに能力使ってみろよ」
「カタストには脳があるでしょうが!」
犬飼は頬杖をつきながら続ける。
「お前の能力って結局、特殊な脳波飛ばしてるだけだろ」
「……それが何?」
「相手の脳波に合わせて、効果的な脳波を飛ばす」
犬飼は画面をぼんやり眺めたまま言う。
「能力の副次的な最適化で脳自体も変質してるんだろうけど」
そこで小さく息を吐いた。
「正直、効くか怪しい」
「効いたとしても完全支配は無理だ」
叶は唇を噛む。
「でも、少しでも効くなら――」
「足手まとい」
言葉を遮るように犬飼が返した。
叶はそれでも引かない。
「犬飼の危険が少しでも減るなら」
犬飼は面倒そうに手を振る。
「だから言ったろ」
「俺はさっきラッシュ外した」
「次は確実に当たる。つまり生き残る」
「なにその理論……」
叶は呆れたように笑う。
犬飼は椅子にもたれたまま、小さく口を開いた。
「心配すんな」
その声だけ、少し真面目だった。
「勝つから」
叶は数秒黙ったあと、諦めたように肩を落とす。
「……はいはい」




