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エヒト  作者: ルイ
18/34

「ただいま」

扉を開けながら、灯が部屋へ入る。

「おかえりなさい、灯さん」

君はソファから立ち上がり、彼女を迎えた。

灯は靴を脱ぎながら、ふと思い出したように口を開く。

「ねぇ。神様のゲームで、なんであんな選択したの?」

「またその話ですか?」

君は少し困ったように笑う。

「必死だったので、正直あまり覚えてません」

「じゃあさ」

灯は振り返り、面白そうに目を細めた。

「必死だった君が、何考えてたか当ててあげようか」

君は黙ったまま彼女を見る。

灯は軽い調子のまま続けた。

「私に見捨てられたくなかった」

「……当たり前の思考だと思いますけど」

「なら、なんで私の命も自分の命も賭けのチップにしたの?」

言葉が止まる。

君は視線を逸らし、小さく息を吐いた。

「それは……すみません」

「いや、別に責めてないよ?」

灯は肩を竦める。

「結果的には最善手だったし」

そこで少しだけ間を置いた。

「でも、本当はこう考えてたんじゃない?」

灯の声が少し静かになる。

「――どっちも死ねば、見捨てられるとか関係ない」

君の表情が僅かに揺れた。

「……何が言いたいんですか?」

「別に」

灯は淡々と続ける。

「ヴルカーン討伐に協力しないのも、自分が死にたくないっていうより、私に死んでほしくないからでしょ?」

「当然です」

即答だった。

灯は少しだけ笑う。

「じゃあさ。行くのが犬飼一人だったら?」

沈黙。

君は答えない。

「まぁ、仲良いわけでもないし。止める義理がないのも分かるよ」

灯はソファへ腰を下ろしながら続ける。

「それより、唯一自分を認めてくれた人を手放したくないもんね」

君の声が低くなる。

「……もう一度言います。何が言いたいんですか?」

「悪いとは言ってないよ」

灯は君を見る。

「でも、私はどのみち独断で行く」

「止めますよ」

「君が? どうやって?」

次の瞬間。

視界が反転する。

気づけば君は床へ組み伏せられていた。

「止められるわけないでしょ」

灯の声は穏やかだった。

「……それでも」

「別に簡単なんだよ?」

灯が君を見下ろす。

「君がヴルカーン討伐にホイホイ付いてくる魔法の言葉を言えばいいだけ」

「………」

灯は少しだけ笑った。

「ヴルカーンと戦わないと、見捨てちゃうよ」

その瞬間。

君の目から涙が零れた。

灯は小さく目を瞬かせる。

「……泣かなくてもいいのに」

「どうしたんですか、急に……」

「君を説得するのなんて簡単だよ」

灯は静かに言う。

「でもさ。それでいいの?」

君は黙る。

「私の操り人形になるだけで」

「………」

「君の人生は、君のものだよ」

そこで初めて、感情が爆発した。

「灯さんに何が分かるんですか!!」

君の声が震える。

「いつも評価されて、見てもらってる人に!」

灯は反論しない。

ただ静かに聞いている。

「綺麗事を言うのは簡単ですよ」

「確かに簡単だね」

灯はあっさり頷いた。

「でも、その綺麗事を少しでも実行しないと、君は変われないよ」

君は拳を握る。

「親にも見捨てられた。誰も見てくれない。そんな現実で苦しんでるんです」

「だからこそ、君自身が変わらないと」

「……こんな風にですか?」

過剰な感情。

その瞬間、コピー条件が満たされる。

空気が凍りついた。

室温が急激に下がる。

君の周囲から白い冷気が漏れ出していた。

灯は静かにそれを見つめる。

「それは違うよ」

「……何が」

「上っ面だけだから」

灯は迷いなく言い切った。

「中身が変わってない」

君は歯を食いしばる。

「でも、その上っ面で周りは評価するんですよ」

「評価されれば満足?」

「当たり前じゃないですか」

灯は少し考えるように目を伏せた。

「じゃあ、なんで最初に会った頃」

「カタスト倒してる時、あんな寂しそうな顔してたの?」

君の呼吸が止まる。

「周りはちゃんと評価してたよ?」

「……飽きただけです」

「自分自身を見られてないって、気づいたんじゃないの?」

君は睨み返す。

「灯さんこそ、自分を見られてると思ってるんですか?」

「全然?」

灯は即答した。

「そもそも評価されたいなんて思ったことないし」

「神様を殺すのだって、やるべきだからやるだけ」

君は吐き捨てるように言う。

「恵まれてる人の戯言ですね」

「まぁ、それはそうかもね」

灯は否定しなかった。

「他人の評価で生き方決めないで済む分、恵まれてるとは思う」

君は少し拍子抜けしたように眉を寄せる。

「……反論しないんですか?」

「してほしいの?」

「好きにどうぞ」

灯は少しだけ笑った。

「君のお兄さんってさ」

その瞬間。

部屋の温度が更に下がる。

「人から評価されるとか、考えてなかったと思うよ」

「だから君を助けたんでしょ?」

君の視線が鋭くなる。

「兄に出来たから? あの人は特別だから?」

君の声が低くなる。

「それを言い始めたら終わりだと思いません?」

「うん。その通り」

灯は迷わず頷いた。

君が目を見開く。

「……は?」

「言い始めたら終わりだよ」

灯は静かに続ける。

「だから、自分に出来ることを精一杯やるしかない」

「結果がどうでも、自分が納得出来るように」

君は苦々しく笑う。

「言うのは簡単ですね」

「でも、君に出来ないとは思えない」

「……なんですか、それ」

灯は立ち上がりながら肩を竦めた。

「自分で考えな」

沈黙。

少しだけ、部屋の空気が落ち着く。

灯は君を見る。

「焦らなくていいよ」

長い沈黙の後。

君はぽつりと呟いた。

「……春」

「ん?」

「一ノ瀬春。それが俺の名前です」

灯が少しだけ目を丸くする。

「なんで急に言おうと思ったの?」

春は視線を逸らした。

「少なくとも、兄の名前で評価されるのは面倒だったからです」

そして静かに続ける。

「ヴルカーンは討伐します」

「二人を捨て駒にしてでも」

灯は数秒黙った後、ふっと笑った。

「へぇ……面白い方向に吹っ切れたね」

そして手を差し出す。

「よろしく、春」

春はその手を見て、小さく頷いた。

「……よろしくお願いします」

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