アイスツァイト
一年前。そいつは、突如として現れた。
世界最大級の活火山から生まれ、国境を踏み越えながら進み続ける。
その過程で、五億人が死んだ。
とある国に上陸したときだった。
空気が歪み、地表が溶ける。
都市が、焼き潰されようとしていた。
「……暑くて仕方ないね」
白雪灯が、つまらなさそうに呟く。
「この国も焼き払うつもりかな?」
次の瞬間。
灼熱が、消えた。
凍ったのではない。
熱そのものが、意味を失った。
白雪灯の能力――アイスツァイト。
本来なら、世界を極寒に変え、滅ぼす力。
戦闘は一時間に及んだ。
結果、決着はつかなかった。
ヴルカーンは退き、再び活火山へと戻り、眠りにつく。
誰もが知る、伝説の逸話。
現在。
白雪灯が、静かに口を開く。
「ヴルカーンを討伐すれば、レベル10に届く」
一拍。
「手伝ってくれないかな?」
君は即座に首を振る。
「実力が違います。足手まといになるだけです」
灯は肩をすくめた。
「君なら、私の能力はコピーできなくても」
「極寒に耐えられる“体”は再現できるでしょ」
「巻き添えにはならないよ」
「……やる理由がありません」
灯の視線が、わずかに細まる。
「二十億」
「神に殺された数だ」
「いつまで許すつもり?」
「勝てませんよ」
君は淡々と返す。
「神は論外として、ヴルカーンにも届かない」
「全く」
灯が小さく笑う。
「君たちは、いつまで不条理を受け入れるのかな」
「受け入れるしかない現実です」
短い沈黙。
灯は、あっさりと言った。
「君に任せたいのは、ヴルカーンを倒す方法の構築だ」
「やり方は問わない」
「……まだ了承してません」
「知ってるよ」
「でも」
灯は視線を逸らさない。
「あのゲームで被害を抑えたのは君だ」
「期待してる」
君はわずかに眉を寄せる。
「買い被りすぎです」
「無理なものは、無理です」
灯は小さく息を吐いた。
「犬飼といい……」
「説得に時間がかかりそうだね」




