居酒屋
ヴルカーン討伐して犬飼が帰国した日。
恋宮叶は密かに計画を立てていた。
犬飼を酔わせて本音を引き出す。
ついでに酔ったフリをして甘えてみるのも良いかもしれない。
完璧な作戦だった。
少なくとも、叶はそう思っていた。
居酒屋。
犬飼はメニューを眺めながら呟く。
「酒あんまり飲まないんだよな。」
「へぇ……。」
叶は内心でほくそ笑む。
多分アルコールに弱い。
普段飲まない人間はそういうパターンが多い。
「飲みやすいの適当に頼むね。」
「おう。」
快諾。
叶は飲みやすいが度数だけは高い酒を注文した。
そして注文を終えた後、ふと思う。
男女でやる事逆じゃない?
二時間後。
「いや、マジで一ノ瀬の自爆作戦は論外だったわ。」
犬飼がジョッキを置く。
「ヴルカーンの爆発で破片が横通り過ぎた時、普通に冷や汗かいたし。」
「作戦今初めて聞いたんだけど。」
叶は呆れた。
「ヤバ過ぎない?」
犬飼は笑う。
「だろ?」
叶は犬飼のグラスを見る。
空。
自分と同じペース。
顔色。
変化なし。
呂律。
正常。
目付き。
普段通り。
あれ?
こいつ全然酔ってなくない?
叶は探りを入れる。
「犬飼、お酒どう?」
犬飼は少し考えた。
「よく分かんねぇけど、美味いんじゃね?」
「あー……うん。」
叶は悟った。
こいつ。
普段飲まないだけで酒強いタイプだ。
作戦変更。
酔ったフリをして甘える。
「……。」
無理だった。
シラフの相手にシラフで甘えるとか難易度がおかしい。
そもそも叶自身も能力の副次的な最適化で酔わない。
酔った演技など出来る気がしなかった。
どうしよう。
叶は話題を探す。
そして無難そうな質問を選んだ。
「犬飼って女の子とお酒飲んだ事ある?」
犬飼は即答した。
「あー。あるな。」
叶の心臓が少し跳ねる。
「へぇー。」
平静を装う。
「キャバクラとか?」
犬飼は首を横に振った。
「妹が二十歳になってから、よく一緒に飲んでたな。」
沈黙。
叶は固まった。
しまった。
地雷踏んだ。
犬飼は数秒黙り込む。
それから唐突に立ち上がった。
「あ、そういやカジノの経費まだ通ってねぇんだった。」
「は?」
「金ねぇわ。」
犬飼は真顔で続ける。
「パチで増やすか。」
「オイコラ。」
叶は呆れたようにツッコミを入れる。
だが内心では少し安心していた。
犬飼は暗い空気になると誤魔化す。
昔からそうだ。
だから今の馬鹿みたいな発言も、きっとその一種なのだろう。
叶はグラスを傾けながら小さく息を吐いた。
今夜、本音を聞き出すのは無理そうだった。




