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変われなくても

カフェの窓際。

灯は机に突っ伏しながら大きくため息を吐いた。

「辛いなぁー。なんやかんや。」

蒼はいつも通り軽い調子で返す。

「お疲れー!」

灯は顔だけ上げた。

「慰めてよ。」

蒼は少し考える。

「もしここで『辛いよね』なんて言ったらさ。」

「辛い事が更にのしかからない?」

灯は情けない声を漏らした。

「うぅ……。」

そして諦めたように呟く。

「まぁ、辛くても無理すればなんとかなるか。」

蒼は即座に首を振った。

「辞めた方が良いんじゃない?」

「その考え。」

灯は不満そうだ。

「いや、なんとかなるでしょ。」

蒼はふと尋ねた。

「灯って泳げる?」

「そりゃ人並みには。」

灯が答えると、蒼は当然のように続けた。

「ならさ。」

「泳げるなら水の中にずっと居られるじゃん。」

「海に沈んでくれば?」

灯は顔をしかめた。

「何馬鹿な事言ってんの。」

蒼は笑う。

「馬鹿な事だよ?」

「灯が言った事と同じ。」

灯は悔しそうに唸った。

「言い返せないの悔しい。」

蒼は楽しそうだった。

しばらくして灯が顔を上げる。

「蒼が褒めたりしてよ。」

蒼は本気で驚いた。

「え? 無理。」

「酷い。」

灯が即座に抗議する。

蒼は平然としていた。

「褒める事無い。」

灯は納得できない。

「人に頼らなくても生きていけてるし偉いじゃん!」

蒼は首を傾げた。

「なんで偉いの?」

灯は言葉に詰まる。

「え……いや。」

「頑張ってるじゃん。」

蒼は静かに問い返した。

「助けを求めた人は偉くないの?」

灯は慌てる。

「いや……そういう訳じゃ。」

蒼はコーヒーを一口飲んだ。

「その理論を褒めるとさ。」

「助けを求めた人を侮辱するのと同じだよ。」

灯は唸る。

「うーん……。」

蒼は続けた。

「例えば。」

「優しいのが偉いって褒めるとするじゃん。」

灯は頷く。

「うん。」

「無理して人に優しくしてる人にとっては重荷だよ。」

「それも。」

灯は腕を組んだ。

「なら、蒼は何を褒めるの?」

蒼は少し考える。

だがすぐに肩を竦めた。

「さぁ?」

灯は呆れた。

「弟は褒めるじゃん!」

蒼はあっさり答える。

「灯と弟は違うよ。」

「差別ー。」

灯が抗議する。

蒼は笑った。

「そうかもね。」

灯はじっと蒼を見る。

「じゃあ、何が違うの?」

蒼は少しだけ考え込んだ。

そして問い返す。

「灯は前に進んでる?」

灯は眉をひそめる。

「前に進める程、直ぐには変われないよ。」

蒼は不思議そうな顔をした。

「だから?」

「え?」

灯が戸惑う。

蒼は当然のように言った。

「人は変わらなくても前に進めるよ。」

灯はますます分からなくなった。

「よく分かんない。」

蒼は楽しそうに笑う。

「知ってる。」

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