寒空の下
灯が十八の頃
「寒い……。」
冬空の下。
灯は膝を抱えながら白い息を吐いた。
「なんで、私だけ。」
未成年の少女が路上に座り込んでいれば当然目立つ。
何か話しかけてくる人もいた。
聞こえてはいる。
だが、聞きたくなかった。
内容を理解したくなかった。
その時だった。
「あー……探した。家出するなよ本当に。」
背後から聞こえた声に、話しかけていた男性が固まる。
そして気まずそうに立ち去っていった。
灯が振り返る。
見知らぬ男が楽しそうに笑っていた。
「おもしろー。」
「何が?」
「下心? 正義感?」
男は逃げていく男性の背中を眺める。
「見てたらさ。」
「思いついて。」
「やりたくなっちゃったんだよね。」
灯はため息を吐いた。
「計画性……。」
「失敗したらどうするの?」
男は首を傾げる。
「何もしないのが失敗なんだよ。」
「行動して失敗しても同じでしょ。」
「むしろマイナスになる。」
灯がそう言うと、男は楽しそうに笑った。
「そうだね。」
「けどさ。」
「前にも後ろにも進まないのって楽しい?」
灯は少しだけ考える。
「後ろに下がれば、もっとつまらないでしょ。」
男は感心したように頷いた。
「分かりあえないねぇ。」
「確かにね。」
短い沈黙。
そして男が突然手を叩いた。
「あ!」
「助けてあげよう。」
灯は嫌そうな顔をする。
「はぁ……。」
男は気にしない。
「弟がこの前家出した時のやり口教えてあげるよ。」
「聞いてないんだけど。」
男は構わず話し始める。
「────」
話を聞き終えた灯は真顔になった。
「……弟さんヤバいね。」
男は満足そうに頷く。
「でしょ?」
そして立ち上がった。
「じゃぁね!」
「名前。」
灯が呼び止める。
男は振り返った。
「一ノ瀬蒼。」
「ふーん……。」
そう言い残して蒼は去っていった。
三十分後。
灯はボロボロの住宅を見上げていた。
「住む場所は手に入ったけど……。」
目の前には取り壊し予定の空き家。
灯は頭を抱える。
「取り壊し予定の住宅に住む思考回路どうなってんの?」
蒼から聞いた方法を思い出す。
「バレたら、お茶渡して『お疲れ様です』って言って出て行けば逃げられるらしいけど。」
沈黙。
そして。
「頭おかしいんじゃないの?」
誰もいない住宅街に、灯の呆れた声だけが響いた。




