努力
「食料は……本当に手に入るのか?」
灯は蒼に教えられた場所へ足を踏み入れた。
古びた倉庫のような場所。
中には缶詰や飲料水が積まれている。
「んー……。」
灯は周囲を見回した。
「本当にあったけど、なんでか分かんない。」
「や!」
突然背後から声がした。
灯が飛び上がるように振り返る。
「え?」
そこには蒼が立っていた。
「来ると思ったから来た。」
当たり前のように言う。
「もしかして……。」
灯は積まれた食料を見る。
「置いてくれたの?」
蒼は肩を竦めた。
「まぁねぇ。」
「どうして?」
蒼は少し考えた後、小さく笑う。
「流石に弟の食料確保技術は言えなかった。」
灯は真顔になった。
「…………。」
そして静かに呟く。
「あれ以上があったんだ。」
蒼は楽しそうに頷く。
「ハトに殺虫剤を染み込ませた乾燥パンを食べさせてさ。」
「殺して食べてた。」
灯は顔をしかめた。
「うわぁ……。」
蒼は続ける。
「因みにそれで入院したから見つかった。」
「怒られた後になんて言ったと思う?」
灯は即答した。
「ごめんなさいでしょ。」
蒼は吹き出した。
「殺虫剤じゃなくてタマネギとかにすべきだった……だってさ!」
灯は頭を抱える。
「頭おかしいんじゃないの?」
蒼は懐かしそうに笑った。
「病院の先生の顔は忘れられないなぁ。」
灯は呆れた顔で聞く。
「蒼はなんて言ったの?」
「病原菌とか寄生虫もいるぞーって。」
「そしたら?」
蒼は弟の口調を真似した。
「加熱はしたし、塩漬けも試そうかな。」
灯は遠い目をした。
「大丈夫? その弟さん。」
蒼は即答した。
「可愛い弟だよ。」
灯は真顔になる。
「どこが?」
蒼は指を折りながら語り始めた。
「サッカー部でさ。」
「僕と同じ成果を出そうとして、必死に練習してた。」
灯は少し感心する。
「努力家なんだね。」
「努力の成果もあってちゃんと――」
蒼はそこで言葉を切った。
灯が頷く。
「うんうん。」
蒼は満面の笑みを浮かべた。
「副審があんまりルール分かってない自チームのベンチの子だったのを利用してオフサイドしまくってたなぁ。」
沈黙。
灯は真顔になった。
蒼は気にせず続ける。
「顧問に怒られて。」
「しょげて部活辞めてた。」
灯は眉をひそめる。
「可愛い弟?」
蒼は頷く。
「しかもだよ?」
嫌な予感しかしなかった。
「うん。」
蒼は楽しそうに語る。
「ルール分かってないからその子副審やらせてもらえなかったんだけど。」
「皆やってるのに不公平じゃないですかって先生に言って。」
「一回だけその子にやらせてもらったのは鮮やかだった。」
灯は呆れた。
「褒めてるのそれ?」
蒼は当然のように答える。
「可愛い弟の努力は褒めるべきだよ。」
灯はため息を吐いた。
蒼はさらに続ける。
「テストも仮病で休んでさ。」
灯が即座に反応する。
「嫌な予感しかしない……。」
蒼は嬉しそうだった。
「他クラスの、弟が休んだこと知らない友達の家に遊びに行って。」
「テストの自己採点一緒にやろうって。」
灯が顔を覆う。
「あー……。」
蒼は構わず続けた。
「問題見てから追試受けて学年一位取った。」
灯は天を仰いだ。
「なんなのその弟。」
蒼は笑う。
「サッカー部の前科があったから流石にバレて怒られたけどね!」
「当然でしょ。」
灯は即答した。
しばらく笑っていた蒼だったが、ふと真面目な顔になる。
「非常識だと思う?」
灯は頷く。
「そりゃ勿論。」
蒼は少しだけ空を見上げた。
「けどさ。」
「うん。」
「目標に向かって。」
「喰らいついて。」
「前に進む。」
蒼は楽しそうに笑う。
「良いよね!!」
灯は間髪入れずに返した。
「いや、美談にしないで。」




