三大恩恵
白雪灯が、どこか愉快そうに口を開いた。
「さて――神に喧嘩を売った君には、少し話しておこうかな」
軽い調子に、君は眉を寄せる。
「……茶化さないでください」
反発しながらも、視線は逸らさない。
灯は小さく笑った。
「神の“三大恩恵”。どこまで知ってる?」
「一つは、災害の消失……ですよね」
「“消えた”わけじゃないよ。カタストに置き換わっただけ」
さらりと言ってから、少しだけ間を置く。
「――で、私の目的は残り二つ」
君はすぐに察する。
「刻印階級と、べシュルツ……」
「そう」
灯は指を一本立てる。
「刻印は信仰で上がる。逆に、忘れられれば落ちる。ゼロで死ぬけど……まあ、そこまで落ちる人間は少ない」
「問題は、命令権の方ですよね」
君の声がわずかに硬くなる。
「自分よりレベルの低い人間に、レベル1を消費して絶対命令ができる」
「そう。死ねと言えば、死ぬ」
灯は楽しげに頷く。
「その結果が、今の階級社会。ついでに――畏怖も信仰扱いだからね」
「……報道された殺人鬼のレベルが上がる」
「正解。手がつけられなくなる」
一拍。
君は視線を鋭くする。
「……まさか、べシュルツをやる気ですか」
灯はあっさり肯定した。
「うん」
「正気ですか。レベルは最大10。実行で9消費。過半数を取れなければ、残りも削れて死ぬ」
「でも、可決されれば“願いは通る”」
その言い方に、君は嫌な予感を覚える。
「……何を願うつもりですか」
灯は迷いなく答えた。
「神との聖戦」
一瞬、言葉が止まる。
「……は?」
灯は肩をすくめた。
「神に喧嘩売った君が、その反応?」
「勝てるわけないでしょう」
「どうかな」
灯の瞳が、わずかに細まる。
「私の体質、知ってるでしょ。恩恵を“過剰に受け取る”」
静かに、しかし確信を込めて続ける。
「神が与えるはずだった力、その何倍も持ってる」
「それでも……」
「それに」
言葉を遮るように、灯が続ける。
「犬飼優人。神由来の力を無効化するジョーカー」
君は息を飲む。
「……本気で、殺せると?」
灯は笑った。
「もちろん」
一歩、距離を詰める。
「だから――手伝ってよ」
君は即座に首を振る。
「前提が破綻してます。そもそも、レベル10に届かない」
沈黙。
次の瞬間、灯はくすっと笑った。
「夢がないなあ」




