神の子
「叶、お前は神の子だ。」
父は、そう言っていた。
――未来予知なんて、出来るはずがない。
ただ観察して、推理して、起こり得る未来を“当てているだけ”だ。
それでも人は信じた。
宗教は立ち上がり、私は“神の子”として扱われた。
扱われた――そう、“人”としてじゃない。
道具のように。
毎日、信者の悩みを聞いて答える。
感謝はされる。頭も下げられる。
でも、満たされない。
父はその横で、信者の女と遊び続けていた。
母が逃げた理由なんて、考えるまでもない。
――ある日、本物が現れた。
左手に刻まれた刻印。
そして、目の前にいた父は。
何の前触れもなく、塵になって消えた。
神は言った。
「願いを叶えてやる」と。
私は、迷わず願った。
――愛されたい、と。
与えられたのは、洗脳。
他人に好意を植え付ける力。
こんなものは、愛じゃない。
ただの偽物だ。
そして始まった、神の理不尽なゲーム。
隣にいた相方は、泣き叫んでいた。
家族がいる、死にたくない、と。
でも分かる。
観察すれば、一目で分かる。
――全部、嘘だ。
なのに、最後に自分が死ぬと言った時、そいつは笑っていた。
……もういい。
どうでもいい。
残り、10秒。
言葉を発しようとした、その瞬間。
「お疲れさん」
声がした。
振り返る。
犬飼が、そこにいた。
神との“接続”が、切れている。
私だけじゃない。周囲もだ。
――こいつ、自分以外の接続も切れるのか。
叶が問いかける。
「……何で助けたの?」
犬飼は肩をすくめる。
「俺が何をしようが、勝手だろ」
その答えは、軽い。
あまりにも軽い。
叶が周囲を見渡す。
「待って……なんか、騒がしくない?」
遠くでざわめきが広がっていた。
聞こえてくる断片的な声が、どこか歪んでいる。
誰が死ぬかを選べ、という問いに。
“神を選んだ人間”がいたらしい。
その瞬間、神が笑った。
――面白い、と。
ゲームは、そこで終わった。
……だから、助かった。
犬飼が面白そうに笑う。
「頭おかしい奴もいるもんだな。面白いじゃん」
少しだけ、間が空く。
叶は小さく言った。
「……ありがと」
犬飼は即座に返す。
「どの道、助かってただろ」
間。
ほんの少しだけ、目を伏せて。
叶は答える。
「……いいの。それでも」




