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口がある限り

「神谷天の情報を集めろなんてぇ、無茶言うなぁ。」

名無しは椅子の背にもたれながら天井を見上げた。

普通なら断る依頼だった。

神。

だが。

「けどぉ、やってみるかぁ……。」

その口元には笑みが浮かんでいた。

名無しは机いっぱいに資料を広げる。

行方不明者。

死亡者名簿。

神誕生前後の記録。

大量の情報を眺めながら、ぶつぶつと独り言を漏らした。

「怪しいのはぁ……。」

ペン先がある一点で止まる。

「やっぱり神が最初の奇跡の後に滅ぼした場所だよね。」

人口の一割を殺した。

それだけでも十分すぎる見せしめだ。

それなのに、その直後に特定地域を丸ごと消し飛ばした。

「人口の一割殺して更に?」

名無しは首を傾げる。

「裏に何かあるよね。」

資料を次々と並べていく。

そして。

「行方不明者リストがこちらになりまーす。」

誰も居ない部屋で一人拍手した。

さらに死亡者名簿を重ねる。

神が最初の奇跡で殺した人間。

消滅した地域の住民。

データを何重にも照合する。

時間だけが過ぎていった。

そして一時間後。

名無しは勢いよく立ち上がった。

「偏り発見!!」

机を叩く。

「神が滅ぼした場所にあった製薬会社の人間が全員死んでまーす!」

楽しそうだった。

まるで宝探しで当たりを引いた子供のように。

「死人に口無し!」

そして満面の笑みを浮かべる。

「天才です!」

もちろん自分が。

そう言わんばかりだった。

「ではでは、死体ちゃんに喋って貰いましょう!」

三日後。

名無しは満足そうにコーヒーを飲んでいた。

「はーい、手に入りました!」

誰に言うでもなく宣言する。

「死体ちゃんが言ってました!」

数秒考えた後、首を振る。

「正確には言ってないけどね!」

机の上には大量の資料が積まれていた。

「ヴァイスハイトの毒で癌細胞を殺すなんて馬鹿な研究だねぇ。」

残された記録。

関係者の証言。

金の流れ。

消えた人間達。

バラバラだった情報が少しずつ繋がっていく。

「神が奇跡を起こす前に行方不明になった製薬会社の人間を調べたら出てきちゃいます!」

名無しは楽しそうに笑う。

「地下研究所とかロマンありますね!」

資料をめくる。

「ネットは使いません。もちろん。」

即答だった。

「全部ローカルです。」

感心したように頷く。

「素晴らしい。」

そして一人で拍手する。

「パチパチパチ。」

だが。

名無しはそこで指を立てた。

「けど。」

笑う。

「人の口は閉じられません。」

記録は消せる。

データも消せる。

建物も消せる。

だが、人間は喋る。

「出てきましたねぇ。」

その笑みが深くなる。

「人体実験。」

さらに資料をめくる。

「しかも試験管からオギャァしました。」

楽しそうだった。

「これなら証拠は残りません。」

そして肩を竦める。

「人の口が無ければの話ですけど!」

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