カスとゴミとクズを煮詰めた
カフェの窓際。
灯はコーヒーを口に運びながら、名無しを見た。
「人の良心を利用して心は痛まないの?」
名無しは一瞬きょとんとした後、小さく笑う。
「良心?」
「面白い事を言うね。」
その声はいつもの間延びした口調ではなかった。
明るく。
親しみやすく。
聞いているだけで元気になれそうな声音。
だが、言っている内容は最悪だった。
「情報屋が人の良心を信じるなんて思ってるんだ。」
灯は眉をひそめる。
名無しは楽しそうに続けた。
「人ってさ。」
「良い人になるんじゃないんだよ。」
「知ってた?」
「悪者になりたくないんだよね。」
灯は即答した。
「カスとゴミとクズを煮詰めた意見だね。」
名無しは少しだけ視線を落とした。
「……それが。」
「結局現実じゃないですか。」
今度は逆だった。
守ってあげたくなるような声。
分かっていてもそう思わせる。
それが名無しだった。
灯はため息を吐く。
「お金は今回は何に使うの?」
一瞬で空気が変わる。
「お城に住むんだ!!」
女子高生のような弾んだ声。
灯は思わず笑った。
「へぇ。」
「いいじゃん。」
どうせ数ヶ月後には。
部屋が広いと掃除が面倒だとか言いながら、城を残したまま別の家に引っ越している。
灯には容易に想像できた。
コーヒーを一口飲む。
「美人なんだから色仕掛けでもすれば?」
嫌味だった。
名無しは肩を竦める。
「分かってないなぁ、灯ちゃんは。」
今度は昔からの友達みたいな口調になる。
「情報に見栄とか余計な感情を入れたら質が落ちちゃうよ!」
灯は呆れたように頬杖をついた。
「平気で嘘ついて。」
「心は痛まないのかな?」
名無しは不思議そうな顔をした。
「嘘?」
「何のこと?」
灯は黙っている。
名無しは笑った。
「灯ちゃんは心が読めるの?」
「相手が話したら嘘かどうか分かっちゃうの?」
「全部?」
そして。
人差し指を立てる。
「嘘っていうのはね。」
「渡した側じゃなくて。」
「受け取った側が決めるんだよ?」
灯は額を押さえた。
「全く……。」
そして小さく呟く。
「そろそろぶち殺そうかな。」
名無しは気にした様子も無かった。
むしろ楽しそうだった。
「人を神に変える薬。」
灯の動きが止まる。
「………。」
名無しは笑う。
「神谷天の名前はモルモット。」
「お母さんは試験管だよ!」
灯は静かに聞く。
「ふーん。」
「場所は?」
「ざーんねん。」
名無しは両手を広げた。
「神様が証拠なんて残す訳ないじゃん。」
「最初の奇跡で人口の一割殺した後。」
「閃光で滅ぼした場所だよ。」
灯は考え込む。
「集めた感情の量をそのまま出力に変える能力も持ってたよね。」
「推測だけど。」
名無しは即座に首を振った。
「アハハ。」
「憶測ほどゴミな情報は無いよ。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて灯はコーヒーを飲み干した。
「まぁいいや。」
「頼んでた仕事はしてくれたみたいだし。」
名無しは机に身を乗り出す。
「追加報酬頂戴!!」
「ここのコーヒー代って事で。」
灯は即答した。
「許してよぉ。」
名無しは両手を合わせる。
「セキュリティ盗もうとしたの。」
灯は笑顔で答えた。
「なおさら駄目。」




