侵入
「あ、恋宮さん!」
叶が振り返る。
見覚えのない女性がこちらへ駆け寄ってきていた。
「ん? えっとぉ、どちら様ですか? 見ない顔ですが。」
女性は申し訳なさそうに頭を下げた。
「セキュリティ部署に配属された工藤です。」
「ん? 聞いてないんだけど。」
「仕事が出来なさすぎてたらい回しです……。」
叶は一瞬固まった。
「あ……なんかごめん。」
女性は苦笑する。
「セキュリティ関係の書類が欲しいって言われてー……。」
「誰に聞いたら良いのか分からなくて。」
「恋宮さんなら知ってるって聞いたんです。」
叶は首を傾げる。
「あれ?」
「セキュリティ関係って極秘らしいけど必要なの?」
「んー……。」
女性は困ったように笑った。
「私もセキュリティ詳しくなくて。」
「よく分からない単語並べられて。」
「なんで必要なのかも分からないんです。」
「あー……なるほど。」
叶は納得したように頷く。
「いいよ。」
そう言ってUSBをパソコンへ差し込んだ。
数分後。
叶はUSBを女性へ手渡す。
「はいこれ。」
「落とさないでね。」
「が、頑張ります……。」
「大丈夫大丈夫。」
そう言いながらも、叶は少しだけ不安になった。
その時だった。
「名無しさぁ。」
聞き慣れた声が背後から響く。
「良い度胸してんじゃん。」
女性が振り返る。
そして、へらりと笑った。
「あぁ、バレたぁ。」
灯が呆れたようにため息を吐く。
「喧嘩売る相手は選びな?」
「えぇ……だってぇ。」
名無しはUSBをひらひら振った。
「お金沢山入るんだもぉん。」
「いくら?」
灯が聞く。
名無しは肩を竦めた。
「信用だからねぇ。」
灯は即答した。
「そいつの情報も売って殺すから。」
「払えないと思うよぉ。」
「五千億でどう?」
名無しは少し考える。
「んー……持ってるの?」
「持ってるから。」
灯は笑った。
「だから手を引きな。」
名無しはあっさり頷く。
「まぁいいやぁ。」
「手を引くよぉ。」
沈黙。
叶は二人を交互に見た。
数秒後。
勢いよく机を叩く。
「待て待て待て!!」
灯が首を傾げる。
「何?」
「いや、そこじゃないから!」
叶は名無しを指差した。
「こいつ誰?」
「あぁ。」
灯は納得したように頷く。
「名無し。」
「情報屋だよ。」
「どうやって入った!!」
名無しは楽しそうに笑った。
「ひぃみつ。」
叶の額に青筋が浮かぶ。
灯は財布を取り出した。
「プラス千億。」
「教えてあげな。」
「セキュリティ担当が可哀想じゃん。」
「あー。」
名無しは素直に頷く。
「それもそうだねぇ。」
そして指を折りながら説明を始めた。
「えっとぉ。」
「走って書類持ってきてぇ。」
「入り口でセキュリティカード必要な所で慌てふためいてぇ。」
「佐々木さんに渡してくださいって言われたんですけどぉ。」
「重要な書類だからどうしようって。」
「外だと駄目だしぃ。」
「見せちゃ駄目って言われたしぃ。」
「って言ったら。」
名無しは首を傾げる。
「勝手に入れてくれたよ。」
沈黙。
叶は天井を見上げた。
そして疲れ切った声で呟く。
「ここにもゴミがいやがる……。」




