調査 ニ
「一ノ瀬春の情報収集しちゃおうっとぉ。」
名無しは依頼書を眺めながら呟く。
「今回の依頼料でぇ……。」
少し考える。
「プラモデル買っちゃおう。」
数日後。
名無しはインターホンを鳴らした。
玄関が開く。
出てきたのは中年の女性だった。
「はい。」
名無しは少し困ったように笑う。
「春君居ますか?」
女性は首を傾げた。
「春?」
「居ないですけど。」
「あれ?」
名無しは周囲を見回す。
「何処行ったんだろ。」
女性は警戒したように聞いた。
「失礼ですがどちら様ですか?」
「春君の同級生です。」
名無しは微笑む。
「神崎って言います。」
「春に何の用ですか?」
「あー。」
名無しは照れ臭そうに頭を掻いた。
「実は今度結婚するんですよ。」
「それで。」
「一番の友達だった春君にスピーチお願いしたくて。」
女性の表情が止まった。
「春に……友達?」
「そうですけど?」
名無しは不思議そうな顔をする。
女性は苦笑した。
「あの子、不登校になったから。」
「友達なんて居ないものかと。」
「そうだったんですか。」
名無しは少し俯く。
「……あの頃。」
「どうしてあげれば良かったんだろう。」
女性は小さく呟いた。
そして。
「自業自得ですよ。」
名無しが顔を上げる。
「え?」
「あの子の。」
しばらく沈黙が続いた。
名無しの表情が変わる。
「春君を悪く言わないで下さい。」
声に力が入る。
女性は眉をひそめた。
「あなた何も知らないでしょう。」
「知ってます!」
名無しは食い下がる。
「優しくて真面目で!」
「何処が駄目なんですか!」
女性の声も強くなる。
「全部ですよ。」
「何をやっても中途半端。」
「蒼が死んだのだって。」
名無しは即座に首を振る。
「春君のせいじゃない!」
「家を飛び出した癖に。」
「ヴルカーンを倒したからって帰ってきた時は失望しましたよ。」
名無しは言葉を失ったように黙る。
女性は止まらなかった。
「どうしてあんな子を庇うんですか。」
名無しは強く言い返す。
「家族なんだから!」
「お兄さんが大切だったのは分かります!」
「でも春君だって同じじゃないですか!」
女性は静かに首を振った。
「あの子はおかしいんです。」
「おかしい?」
「だって。」
女性は苦しそうに目を伏せた。
「あの日。」
「自分を蒼だと言ったんですよ。」
名無しは黙る。
「親だから分かりました。」
「昔からそうなんです。」
「蒼に追いつこうとして。」
「同じ結果を出そうとして。」
「手段を選ばない。」
沈黙。
名無しは小さく頭を下げた。
「……ありがとうございました。」
数十分後。
名無しは春の家を後にした。
必要な情報は十分だった。
三日後。
自宅。
大きな箱を見つめながら、名無しは満足そうに笑う。
「プラモデル届いたぁ。」
箱を開ける。
部品が大量に入っていた。
「おぉ……。」
説明書を開く。
沈黙。
さらに数秒。
「手順多すぎぃ。」
部品を見る。
説明書を見る。
また部品を見る。
名無しは頷いた。
「捨てちゃおう。」




