調査
灯が犬飼のヴルカーン戦参加の打診をする前
「えぇ……犬飼優人の情報収集かぁ。」
名無しは依頼書を眺めながら呟く。
「んー……。」
「でもパソコン欲しいんだよなぁ。」
報酬額を見る。
十分だった。
「ゲーミングパソコン。」
「ゲーム何しよう。」
少し考える。
「テトリスくらいしか知らないやぁ。」
数日後。
犬飼家。
名無しはインターホンを押した。
しばらくして玄関が開く。
出てきたのは犬飼の母だった。
その瞬間。
名無しの雰囲気が変わる。
姿勢。
視線。
声色。
全てが自然に整う。
「こんにちは。」
少し緊張したような笑顔。
「犬飼優人さんの同僚の木村と申します。」
「あら。」
犬飼の母は柔らかく笑った。
「優人の職場の方ですか?」
「はい。」
名無しは頷く。
「優人さんに頼まれて来ました。」
「こちらの書類にサインを頂きたいそうで。」
犬飼の母は首を傾げる。
「本人が来れば良いのに。」
名無しは困ったように笑う。
「私もそう言ったんですけど。」
「面倒だから頼むって。」
「あー。」
犬飼の母が苦笑した。
「あの子言いそう。」
当然。
書類も。
木村という名前も。
全部嘘だった。
「それで。」
犬飼の母が書類を見る。
「何の書類なの?」
名無しは一瞬で答える。
「対策課って危険なお仕事なので。」
「身元保証人を立てようって話が出てるんです。」
「あー、なるほどね。」
違和感は無い。
自然だった。
名無しは少しだけ躊躇うような表情を作る。
「あの……。」
「ん?」
「優人さんって。」
「時々すごく暗い顔してるんですけど。」
「何か心当たりありますか?」
犬飼の母の表情が僅かに変わる。
ビンゴ。
何かある。
名無しは慌てたように首を振った。
「あっ。」
「気のせいですよね。」
「私の勘違いですよね。」
犬飼の母は少し考え込む。
「うーん……。」
あと一押し。
名無しは視線を落とした。
「……もし私のせいだったらどうしようって。」
「仕事でも役に立ててないし。」
犬飼の母は慌てて首を振る。
「違う違う。」
そして。
口を開いた。
「実はね。」
「優人の妹の優凪が――」
数十分後。
名無しは犬飼家を後にした。
必要な情報は全て手に入った。
三日後。
自宅。
巨大な箱が部屋の真ん中に置かれていた。
名無しは満足そうに頷く。
「ゲーミングパソコン届いたぁ。」
箱を眺める。
数秒。
沈黙。
「どうやってゲームするんだぁ?」
さらに数秒。
説明書を見る。
「……。」
「なんか難しい事書いてる。」
沈黙。
箱を見る。
「てか。」
「思ったよりデカいなぁ。」
さらに沈黙。
名無しは頷いた。
「捨てるかぁ。」




