99話 精神的な不安定さが思考と行動に大きく影響するのが人間だ・・・
フォンガンディでの任務をすっかり忘れていた威流。
椅子に座ったままのキャンディ司祭にこっぴどく説教を受けるのであった。
「そうだ、こんな話をしている場合では無い」
説教に夢中だったキャンディ司祭は、
本来の目的を伝える為、威流に向けて手招きをする。
威流に椅子に座る様に促し改めて話を始める。
「以前に、アーク司教から急ぎの話が有ると聞いているであろう」
「ああ、覚えてますよ。その件についてですか?」
「左様。だが、急ぎと言っても緊急という意味では無い。
かなり前に起きた問題がまだ解決出来てないという事なのだ」
「はあ・・・」
「お前も見たのではないか?
海に居た巨大な生物を・・・」
威流は黙って記憶を辿ると、
思い出せるのは”当たり前”となっていた光景だ。
ゲームでは序盤に見えてるけどその場はスルーして後に戦う事になる。
巨大魚はそういうタイプのボスだった。
「まさか・・・!?
あの海の巨大な背ビレの話をしています」
「その通りだ。
あの海に住み着いた巨大魚の始末を頼みたい」
「始末って、あれを追い払えと仰ってます?」
「出来れば殺して欲しいのだが・・・
逃がしたらまた戻って来るやも知れぬ」
「それをどうやってやれと」
「それを考えるのが魔法使いであるお前の務めではないか」
「えぇっ!!全力で丸投げしてくるじゃないですか」
「仕方ないであろう。
フォンガンディ教や聖騎士では対処出来ないのだ」
「う~ん・・・
魔法を使って上手く対処せよって事ですよね」
「そうだ、上手く対処せよ」
威流は頭を掻き毟る。
海中の魚とどんなバトルを繰り広げればいいのか、
さっぱり見当がつかない。
あの巨大魚に足が生えていて陸上で殴り合えるなら、
まだやり様はあるかもしれない。
だけど、海岸を歩いている俺に襲い掛かって来なかったというのは、
陸上には上がれないという事に他ならない。
奴と戦うには原子力潜水艦でも用意せねば勝てる気がしない。
威流は腕を組み、何かアイデアを捻りだそうと悪戦苦闘するも、
海中という環境と敵の情報が全く無いので何も浮かばないのは無理もなかった。
それなりに真剣に問題と向き合っている威流に、
キャンディ司祭が口を開く。
「この話についてはあまり言うべきではないと思うのだが、
アーク司教はお前に伝えるつもりだったから言っておく」
「何ですか?」
「あの巨大魚がアンブリラに現れ、
人を襲う様になったから漁師達は食い扶持を失った」
「まあ、そうなりますよね」
「ノーラン・・・
いや、デイジーの夫は漁師だったのだ」
「それじゃあ、巨大魚のせいで暮らしが貧しくなったって事ですか?」
「そうだ、お前にとって悪い話では無いというのは、
あれが居なくなれば村にも活気が戻るだろうという意味だ」
「つまりデイジー、リリーのためになるんですね」
「そうだな・・・」
威流はバッと立ち上がり拳を握る。
明確な成果が窺える仕事であり、その報酬はある意味で破格。
威流の目は、
”大きなプロジェクトを任された新入社員”の様に燃え上がった。
「キャンディ司祭も人が悪いなぁ~。
そういうのは先に言って下さいよ」
「お前に話したら、そうなるのは分かっていたのだ。
例えお前といえども、人の気持ちを利用するというのは・・・」
岩石みたいな見た目の割に繊細な心を持つキャンディ司祭は、
四角い目を細め申し訳なさそうに威流を見つめている。
「キャンディ司祭が言わんとしていることは分かりますよ。
確かにアーク司教の言いなりなるのは癪ではありますけど、
デイジーとリリーの為になるのなら、悪い気分では無いんですよ、俺は」
「タケルがそう言うのなら、それで良いのだろうな」
「ええ、良いんですよそれで」
「どうにか出来そうか?」
「俺がどうにかしますよ。まだ方法は分からないですけど」
「それじゃあ、お前に任せたぞ。
何か手助けが必要な時は声を掛けてくれ」
「キャンディ司祭・・・
ありがとうございます」
威流はキャンディ司祭に一礼し赤い建物を後にした。
暗くなった空の下では家々に明かりが灯る。
夜になると赤い建物周辺の店は活気立ち、
料理と酒の匂いが漂い、陽気な歌声も聞こえてくる。
妖艶な女性が店先に立ち客を待ち続け、
それを目当てに男達がこぞってやってくる。
欲望の渦巻く中を威流は歩いて行く。
アンブリラに戻ればリリーとデイジーに会えるという嬉しさと、
言葉が話せる様になったからこそ、あの時の事を謝れる心苦しさがせめぎ合う。
その為、どうにも巨大魚の対策について頭が回らなくなった威流は、
そこらの木の根元に座り込み、ボーッと景色を眺める。
それは、夏祭りを眺めている感覚に似ていた。
暗い夜空に灯る明かりのオレンジ色が境界線を作り、
楽しそうな人々の声や流れる音楽が一つの音となった。
喧騒が遠くに聞こえ、人混みから隔離された様な感覚。
止まった様にゆっくりと時間が流れる。
「ははは・・・
何を落ち込んでいるんだ俺は・・・」
威流を落ち込ませているのは、
デイジーとリリーへの謝罪からの拒絶の可能性。
二人との楽しかった日々を否定される不安であった。




