98話 自分の認識と世界の認識がずれているのには普通気が付かない・・・
顔を赤らめモジモジするマフィアを前に、
大体間違っている勘を信じる威流。
心の準備は出来ている、さあ来い!!
満を持してマフィアは威流に思いを伝える。
「あの、タケルさん・・・」
「はいっ、なんでしょう?」
緊張した威流の声は裏返った。
「今回の報酬を分割じゃだめでしょうか!?」
「はいっ!?」
マフィアがもじもじしていたのは、
高額な魔法使いの報酬を分割にして欲しいという、
”こんにちは 労働”としてはちょっと恥ずかしい内容だったのだ。
ですよね~。
えぇ、えぇ、分かっていましたとも、
まさか同じ勘違いをする愚かな男だと思っていたのですか。
そもそも、魔法を使っている所をマフィアが見ていた訳でも無いのに、
どこが格好良いとなるのか・・・
むしろ、診療所を助けに行って患者を 鏖 にする、
大量殺戮兵器”威流”になる所だったのだ。
「報酬くれ」と言うのも憚られるレベルの失態。
マフィアのお願いに威流は力なく答える。
「あははぁ・・・今回の報酬は大丈夫です」
「そんなっ!!ダメです、ちゃんとお支払いします。
私のお給料では直ぐには払えませんが・・・」
「えっ!?この依頼はマフィアさんなんですか?」
「はい・・・子供の頃からお世話になっている場所なんです。
先生はぶっきらぼうですけど、貧しい人の面倒も見る優しい方なんです」
「だったら、尚更いいですよ。
さっきのカレキさんのお嬢さんも居るみたいですし」
威流の余計な一言で、
もじもじしていたマフィアの目つきが変わり、
いつもとは違う圧力を感じる笑顔を向けて来る。
「そうですよねっ!!
さっきの女の子は若くて可愛いですもんねっ!!」
「なんですか?
カレキさん、お嬢さんの命が助かったって泣いていたので」
「そうだったんですか!?」
「私も知りませんでしたけど、
以前にお会いした時の容態は余程悪かったのでしょう。
あんなに感謝されたら、もう充分なんですよ」
穏やかな表情で笑みを浮かべる威流を、じっと見つめるマフィア。
鈍感男は気が付いてはいないが、今この瞬間に始まっていた。
「じゃあ、やっぱり報酬下さいはだめですよっ!!」
「言いませんよ。
マフィアさんにもお世話になっているのもありますし」
「私はカレキさんのオマケなんですか~?」
「なんでそんな言い方するんですか」
「タケルさんって、ちょっと分かってないですよねー」
「何がですか?」
全く話についていけない威流が不思議そうな顔をしていると、
マフィアが威流の腕に手を回し、寄り添いながら歩く。
マフィアの巨大で柔らかい物体が腕に当たり、
「あぁ、もう死んでも良いかも・・・」と思っていた。
だが、急いでいた為忘れていた現実を思い出す。
「やっべ、皿洗いの事忘れてた・・・」
店主の怒る顔を想像するだけで血の気が引く。
そんな威流にマフィアが耳元で囁く。
「それは私に任せて下さいね」
さっきまで青かった顔がもう赤くなる。
威流の感情はぐっちゃぐちゃである。
飲食店に向かい俺は店主に詫びを入れた。
怒られるどころか店主が笑って許してくれたのは、
料理人が「タケルがマフィアに連れ去られた」と伝えていたからだった。
言葉尻だけで捕らえると誘拐事件発生にも思えるが、
人気の看板娘が連れていったとなれば、何か急ぎの件だと皆分かるようだ。
結局、今日の皿洗いは不要となり、
「明日は宜しく頼む」と店主に言われてホッとした。
その後はマフィアを”こんにちは 労働”まで送ったのだが、
そこまでずっとマフィアは腕にしがみ付いていたので、
どこからともなく野次や罵声が飛んできた。
背筋に悪寒が走るので、今日は池の広場に帰った。
威流が池の広場に帰った頃、
”こんにちは 労働”の人気看板娘が、
よく分からない貧乏そうな男に寄り添い歩いていたと町に噂が広まり、
”熱狂的な信者”を”発狂的な信者”に変えた。
威流は知らないうちに片足を地雷の上に乗せてしまったのだ。
欲望に負け、踏み外したが最後、色々ボカーンである。
翌日も威流は診療所に寄り、
氷柱を数個置いてカレキに砕かせ、水瓶に放り込む。
その後は飲食店に赴き、皿洗いを始める。
賄いの時間になったら料理人達に、
異世界語で「昨日はマジサンキュー」と伝えるとまた冷やかされた。
三店舗目までの皿洗いを終えた威流は、
存在をすっかり忘れていたキャンディ司祭の元へ向かった。
赤い壁にピンクの文字の怪しい建物の中に入ると、
本棚の前にある椅子に座り、左手に本を乗せ読書に勤しむキャンディ司祭。
キャンディ司祭は威流を見て溜息を吐く。
「はぁ、やっと来たか。
まったく・・・このまま来ないのかと思ったぞ。
生活には慣れて来たのか?」
「いや~なんか色々ありまして・・・
完全に忘れてたなんて事はありませんよ」
「お前の顔を見れば、それが嘘か本当かは丸わかりだが」
「えへへ~すいません、本当は忘れてました」
「最初から素直にそう言えば良いのに、なんで下手な嘘を吐くのだ」
「俺ってそんなに表情に出ています?」
「自覚が無いのか?隠すつもりが無い様にしか思えんぞ。
もう少し精神の平静を保ってだな・・・」
久し振りに会ったキャンディ司祭に説教を食らう威流。
元の世界ではそんなに嘘が下手では無かったと自認していたが、
別に上手でも無かったと知る事が出来るのはいつになるのであろうか。




