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96話 情けは人の為ならずとはよく言ったものだ・・・

あくる日の事。


料理人とまかないを食べながら「最近、暑い日が多いよね」と談笑していると、

どこからかともなく俺を呼ぶ声が聞こえた。



立ち上がり辺りを見回してみると、

遠くから大きな胸を揺らしながらマフィアが駆け寄って来る。



俺の前まで走ってくると一旦息を整えてから用件を話し始めた。



「タケルさん、お仕事中にすいません。

 ちょっとお話があって・・・」


一緒にまかないを食べていた料理人達は、

冷やかす様に口笛を吹いたり、「よっ、色男!!」とか言い出したが、

わざわざ俺に言いに来るのは”魔法使い案件”であるのは明白だ。



俺が魔法使いである事を料理人達に聞こえない様に、

洗い場から少し離れた。


マフィアの焦った様子から割と急ぎの案件を頼まれたのだと見える。



「あの、ちょっとお伺いしたい事がありまして、

 タケルさんは魔法で建物を冷やしたりは出来ますか?」


「規模感にも寄りますが、

 建物を冷やしたりは出来なくはないですね」


「本当ですかっ!!

 ちょっと一緒に来て下さい」


マフィアに手を引かれ、俺は走り出す。



手を繋いだまま、人混みを抜けて居住区まで来ると、

一際大きな建物の前で立ち止まる。



「ここです。中に入りましょう!!」


マフィアは手を引いて中にが入ろうとするが、

流石に手を繋いだままというのが気になり、俺は声を掛けた。



「あの、その、手を・・・」


「あぁ、すいません・・・」


パッと手を放したマフィアは少し恥ずかしそう顔を赤らめる。



建物の中に入るとムワッとした熱気が漂い、

快適に過ごせる環境では無い事が直ぐに分かった。



廊下を真っすぐ進んで行き、

マフィアは突き当りの部屋の扉を開け、中に入っていく。



マフィアに付いて行くと、

部屋には腕まくりをした初老の男と若い女性が、

向かい合わせた椅子に座っていた。



「先生、魔法使いのタケルさんをお連れしました」


「おぉ、マフィア。

 頼むからこの暑さをどうにかして貰えないか、

 患者の具合が悪くなっちまう」



振り向いたマフィアは俺の手を取り、真剣な顔をして懇願する。


「ここは、この町の唯一の診療所なんです。

 タケルさんのお力でどうにかして頂けないでしょうか?」


「分かりました。ちょっと色々試してみますね」


「ありがとうございますっ!!」


「それじゃ、マフィアさんはここで待っていてもらえます?」


「何もせずただ見ている訳にはいきません。

 何かお手伝い出来る事があればやります」


「はい、じゃあお手伝い頂きたいので、

 ここで待っていてもらえますか」


俺はマフィアさんの両肩を押さえて椅子に座らせ、廊下を通り建物を出た。



診療所の裏に回り建物の壁を見上げて大きさを確認してから、

ポケットに入れていた茶色い魔石を起動する。



地面を凍らせた時と同じ要領で、

診療所の壁に手を当て壁面に氷を這わせていく。



魔石で出した氷は気温の影響を無視して、

しっかりとした氷壁となったので安心した。



氷で壁を覆ったのを確認した俺は診療所の表に回り、

部屋に戻ってマフィアに温度の加減を聞いてみた。


「なんだかひんやりしてきました!!」


「そうか、じゃあ効果は有りそうだね。

 もうちょっと待っててね」



次に診療所の全面の壁に氷を這わせる。

入り口まで巻き込まない事を意識したせいで、

若干見栄えが悪くなったが、まあいいか。



威流たけるが元の部屋に戻ろうとすると、

ブルブルと肩を震わせ唇が紫になったマフィアが入り口から出て来る。


「タケルさん、・・・寒いです」


「えっ!?寒い?」



威流たけるが建物の中に入ると、

「今日は鍋が美味しいぞ~」と思えるまで室内の気温が下がっており、

先程の先生が「これじゃあ患者が凍死する」と怒っていた。



「やっば!!やり過ぎてしまった・・・」


威流たけるは建物を出て、

壁に貼り付いた氷壁を剥がそうとするも、想像以上に氷が硬い。



火で溶かそうにも黄色の魔石は危なすぎて使えず、

金槌でぶん殴るしか他に方法が無さそうだが、

金槌もなければ筋力も足りない・・・


焦る威流たけるとそれを見守るマフィア。

ちょっと頭が真っ白になりかけた、その時。



「タケル様?タケル様じゃないですかっ!!」


後ろから声を掛けられた威流たけるが振り向くと、

子供服を着た大人が立っていた。



「カレキさん・・・!?」


今の問題解決に一番適した男の登場に、

威流たけるは歓喜し駆け寄る。


「ご無沙汰をしております、タケル様。

 いやしかし、診療所に何があったのでしょうか?」


「細かい説明は後でしますので、

 壁に貼り付いた氷を叩き割って貰えませんか?」


「お安い御用です」


カレキは笑顔でそう答えると、

診療所の入り口の横に置いてある丸太を手にする。



「違う、違う。それで殴っちゃだめ。

 拳で、拳で殴って下さい」


丸太で殴ると建物に被害が出る為、

威流たけるはカレキに人間を超越する依頼をしてしまったが、

涼しい顔をして依頼を受ける。


「タケル様、お任せ下さい」


カレキは丸太を置き、氷壁の前で拳を握り締め、腕を引く。

腰を落して渾身の正拳突きを氷壁に叩きこむ。



拳が氷壁に触れ、一瞬時が止まったかと思った次の瞬間、

拳を当てた個所から全方位に亀裂が走る。



「退避ー、退避ー」


威流たけるはマフィアとカレキを引き連れ建物から離れた。


氷壁はガラガラと音を立てて崩れ落ち、

鋭い破片が地面に突き刺さる。



このとんでもない事を裏側でもう一度やらなければならず、

威流たけるの背筋に寒気が走った。

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