94話 事実をしっかりと受け止めろ。都合よく解釈してると恥を搔く事になるぞ・・・
”こんにちは 労働”に来て、早速試練が訪れる威流。
だが、受付に居た優しい女性のお陰で、この窮地を脱する事が出来そうであった。
「あっ!!そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。
私、マフィアって言います」
「マフィアさん・・・
見た目通りの素敵なお名前ですね」
聞いた名前から威流が想像していたのは、
素敵な女性とは余りにもかけ離れたものであったが、
誰にでも使える定型文で対応する。
「ありがとうございます。
それでは、あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」
「私はタケルと言います」
「タケルさんですね~」
名前を聞いたマフィアはそのまま申請書に記入して質問を続ける。
「おいくつですか?」
「30です」
「30っと。技能についてはどうですか?」
「すいません、技能についてがよく分からないのですが・・・
何か参考になる例とかありませんか?」
「う~ん、それでしたら・・・
例えば剣技とか馬術とか、あと農業や商売、専門の学問などはどうです?」
「それじゃあ、”魔法”・・・とかはどうなんですか?」
魔法の言葉に反応したマフィアはカウンターに身を乗り出し、
顔を近づけてまじまじと威流の顔を見つめる。
その勢いと可愛い顔との近さに押された威流は、
一歩後ろに下がり、つい身構えてしまう。
「タケルさんっ、魔法使いなんですか!?」
マフィアの声の大きさに”何事かと!?”周囲の視線が集まり、
焦った威流は小声で注意を促す。
「あ、あのっ、マフィアさん!!
あまり大きな声で言わない欲しいんですが・・・」
「ごっ、ごめんなさい」
マフィアは慌てて口を両手で隠し小声で謝罪を口にする。
しかし、”こんにちは 労働”の看板娘に何かあったのかと、
熱狂的な信者の視線が威流に突き刺さる。
まるでレーザーサイト付きの銃に狙われている犯罪者の気分だった。
威流は「動いたら殺られる」と息を呑んだ。
その直感は間違いでは無く、周囲の男達は武器の柄に手を掛けている者が殆どであった。
「みなさ~ん、驚かせてすみませんでした~。
特に何もないから気にしないで下さ~い」
マフィアは両腕を挙げ左右に振り、
大きな声で問題は無い旨を笑顔で伝えると、
皆一様にデレッと緩んだ顔をした後に、
再度威流を睨んでから仕事探しに戻った。
「タケルさん、ごめんなさい。
驚いて、つい大きな声を出しちゃいました」
「そんなに驚かれるとは思いませんでしたよ」
「けど、普通は驚く事なんですから、これはタケルさんが悪いですよ」
怒る素振りを見せつつも、
全く怒っていないマフィアが可愛いと思う威流。
「それにしても、マフィアさんはここに居る皆さんに随分と好かれてますね」
「ここに来る皆さんは色々と事情がある方が多くて、
何度も立ち寄られる人は私の顔を覚えてるんだと思います。
それで来る度にいつも私の事を気に掛けてくれるんです」
申請書に記入を続けながら屈託の無い笑顔で話すマフィアだが、
それはただ適当な理由を付けて、看板娘に会いたいが為に立ち寄っている輩が多いのではと思う威流であった。
「それで、仕事探しについて教えて貰えますでしょうか?」
「はいっ!!タケルさんは魔法使いなのでどの仕事も受けて頂けますが、
文字が書けないとなると学問に関するお仕事は難しいと思います」
「そうですか・・・因みに報酬が安くても良いので、
誰にでも出来る簡単な仕事ってどんなのがありますか?」
「魔法使いであれば”お尋ね者の凶悪犯を捕らえる”とか、
”長年退治出来なかった魔物の討伐”とかあります」
「あのっ、技能に添った案件では無くてですね、
こう何と言うか、誰にでも出来そうな事みたいな感じが・・・」
「えっ!?あのぉ~失礼な言い方かもしれませんが、
技能に見合わない報酬になってしまいますけどいいんですか?」
魔法使いが安い報酬の仕事に興味を持つ事を訝しむマフィア。
「ここではあまり目立ちたくないので・・・」
「なるほど、だからわざわざその様な服を着ているんですね」
威流の服はもともとはノーランが着ていた物で、
正に出稼ぎ労働者そのものという恰好であった。
マフィアも威流の姿を見た時に、
飽きる程見てきた普通の出稼ぎ労働者としか思えなかった為、
魔法使いと言われ驚く事になったのだ。
その為、何かしらの事情があって身分を伏せていると察したマフィアは、
威流に顔を近づけこっそりと囁く。
「何かご事情があるんですよね、変に詮索してすいませんでした」
「あはは~、お察し頂けて恐縮です・・・」
無防備に距離を詰めて来るマフィアの胸元が気になってしまい、
強力な引力に吸い寄せられる目線との激しい攻防が始まってしまうが、
何処かで聞きかじったよく知りもしない念仏を頭の中で唱えて煩悩を追い払った。
無の境地に辿り着きそうな威流に、
もう一言マフィアが耳元で囁く。
「もしタケルさんにしか出来ない事があった時は相談させて下さいね」
マフィアの言っている事は言葉通り、
「魔法使いにしか出来ない事はお願いするかも」なのだが、
仕事ばかりして恋愛から遠ざかっていた威流には、
何か別の意味がある様に聞こえるのであった。




