93話 内的要因でも外的要因でもモチベーションが上がるならそれで良い・・・
ただ好奇心を満たすだけの楽しい質問コーナーの時間は終わり、
人の人生に歴史有りと威流は知る事となった。
しかし、ただの”怪しい宗教の人”と思っていた二人の複雑な生い立ちを聞き、
この人達も苦悩して生きる普通の人であると分かって少し安心する威流。
大分長話をしてしまった為、いつしか陽が落ちていた。
明日から”こんにちは 労働”に行く事もあり、
威流は素直に池の広場に帰る。
去り際にアーク司教が気になる一言を伝えて来た。
「タケルよ、お主に急ぎ頼みたい事があるのだが、
今しばらくは仕事をしながら生活に慣れておいてくれ」
「いいんですか?
急ぎなら話を聞いておいた方が良いと思いますが・・・」
「いくらお主が魔法使いと言えど、そう簡単な事では無いのだ。
だから協力を仰げる仲間を増やしておくと良い」
「それって、どうやればいいんですか?」
「そのくらいは自分で考えろ。
ただ、この依頼はお主にとって悪い話では無いはずじゃ」
「そうなんですか?
まあ、お話を頂けるのを待ってますね」
池の広場に向かう途中、
街道でこげちゃんを散歩させながら考える。
仲間かぁ~。
そういえば、会社の人達は元気かなぁ?
もう俺は行方不明者として扱われて死んでると思われてるかもな。
蓮が居たらアーク司教と変に揉めたりしなかったのかなぁ?
俺を探して”スケキヨ”に変なお願いしてなきゃいいけど・・・
しかし、齢三十にして友達作りを意識する事になるとは。
営業やってると”友達多そう”とかよく言われるけど、
全然そんな事無いから、友達少ないから。
「思い付くのがボーゲンだけとは、なんとも悲しい・・・」
マティオンやチキンも友達ではないとは思うし、
そもそもどこに居るかも分からん。
「異世界で友達作ると帰る時しんどくなるからいいんだよ」
勝手に突っ走るこげちゃんの後を追い、
威流は池の広場に戻った。
翌日、威流は賑わう商店の中で、
唯一重い空気を漂わせる建物の前に立っていた。
この建物は長年建て替えもせずに使われているのであろうか、
壁に開いた穴の上から無造作に打ち付けられた板が貧乏臭く、
文字が擦れ曲がった看板に悲壮感が漂っている。
見るからに老朽化が致命的な所まで来ている建物の扉を開けると、
錆び付いた蝶番と木製の扉が軋む音を立てる。
威流が建物の中に足を一歩踏み入れると、
部屋の奥に”受付”と書かれたボロボロのカウンターが目に入る。
回りの壁には掲示板らしきものが幾つか打ち付けられているのだが、
”そんなの関係ねぇ”と言わんばかりに至る所に文字の書かれた紙が貼られている。
貼られた紙を見入る者や数人で相談をしている者、
貼られた紙を巡って喧嘩をしている者もおり、
ここに集まった人々は威流が想像していた通りであった。
威流はポケットの赤い硬貨を手に取り、
”受付”と書いてある場所に歩を進める。
受付に来た威流に気が付いた女性は、
良く響く元気な声で挨拶をしながら笑顔を向けて来る
「”こんにちは労働”へようこそっ!!どの様なご用件ですか?」
受付の女性は威流に声を掛けながら、
茶色い布で長い黒髪を後ろに束ねる。
すると、髪に隠されていた華奢な身体に不釣り合いな大きく丸みを帯びた胸元が、
田舎っぽさを感じる質素な服装にとんでもない視覚的な吸引力を与えた。
目線を女性の胸元に吸い寄せられそうになった威流は、
意地と気合と理性と”こころのちから”を使って目線を胸元から引き剥がし、
なんとか女性の顔に向ける事に成功した。
だが、甘かった。
今度は、薄い茶色の瞳と立派な眉、控えめな鼻筋と柔らかく緩んだ口元、
まだ幼さを感じさせる天真爛漫な笑顔の直撃を食らってしまう。
受付女性による若さ溢れる”隙を生じぬ二段構え”の可愛さに、
威流は見蕩れ、心を奪われてしまう。
「あの、どうかしましたか?」
女性に見蕩れていた威流は、声を掛けられハッと我に返る。
「あっ、いえ、すいません。
今日、初めてここに来たのですが、労働者の登録ここで良いのでしょうか?」
「はいっ!!こちらで承ります。
それではここにお名前と年齢、どういった技能をお持ちかをご記入下さい」
受付の女性は威流の質問に笑顔で答え
一枚の羊皮紙と羽根の軸の先を削って作った筆記具を差し出す。
威流は労働者登録をするにあたって、
申請に”必要事項を記入する”という当たり前の事を失念していた。
どどどどど、どうしよう!?
文字なんて書けませんがー!!
帰るか!?一回帰るか!?
情けないが文字が書けませんと言ってみるか・・・
「あのぉ~、実は私は遠くの国から来たので、
ここの文字が書けなくて・・・」
申し訳なさそうに話す威流に、
受付の女性は少し考えた後に申請書を引き寄せ筆記具を手に取る。
「それでしたら、私が代わりに書きますので、
あなたの事を教えて貰えますか?」
「いいんですか?」
「大丈夫です!!任せて下さい!!」
威流の不安を吹き飛ばす眩しい笑顔の女性に、
自ずと威流も笑顔になった。
”掃き溜めに鶴”とはこの事だ。
仕事を探すという重苦しい雰囲気が漂う混沌の中で、
輝きを放つ女神だ、この人は!!
仕事探しという陰鬱な世界で、威流は楽しみを見つけた。




