92話 優しい人は自分の事を優しいとは言わない・・・
本当に母親似であったキャンディ司祭の変貌振りに恐怖する威流。
現在のアンディスがどれ程の頑強な漢であるのかも気になってしまうのであった。
大いに好奇心を満たせた威流は、
似顔絵を四つ折りに戻しキャンディ司祭に返す。
「本当に素敵なご家族ですね」
「遠く離れていても、私にとって掛け替えの無い大切な家族なのだよ」
キャンディ司祭はいつも通りの無機質で無表情な顔をしているが、
言葉には家族を想う暖かみが表れていた。
「キャンディ司祭もお兄様と同様に、アーク司教に憧れて司祭に?」
「いや、幼き頃の私は誰かに憧れを抱く事は無く、
司祭になってからアーク司教を師事する様になったのだ」
「それはとても不運でしたね。
あの人の下だと、それはもう大変でだったでしょう?」
「タケル、それは私への敵対行動として受け取っても良いのか?」
「これからの自分の事を思うと、キャンディ司祭に同情の念を禁じ得ません」
「お主は物事の捉え方が性格と同様に捻じ曲がっておる」
「タケルは少々誤解している様だが、
アーク司教はその様な御方では無いのだ」
「”そうなんですか?”とはなりませんよキャンディ司祭。
アーク司教の日頃の行いが俺にそう思わせてるんですからね」
「誰の日頃の行いがなんだと言っているのだタケルよ?」
アーク司教の額にはくっきりと青筋が浮かび上がり、
威流に笑顔を向けるが、その目は笑っていない。
「確かにアーク司教に多少強引な所が有るのは否めんが、
全てがそうと言い切れないのだ」
「それならキャンディ司祭の反論をどうぞ」
威流は差し出した手をキャンディ司祭に向け、
”マルチ商法幹部系”司教の人となりを問う。
「お前も知る通り、私は貴族の家の次男として産声を上げた。
そして貴族であれば例外無く、生まれた子は家に尽くすと決まっているのだ」
寂しげな表情で当たり前の様に語るキャンディ司祭に、
威流は”上級国民”の恐ろしさを感じていた。
「父は兄を次期領主にして、
私をその補佐に据えれば、末永く領地は安泰であると期待を寄せていた」
「幼少の頃の父は、子供の教育に自ら教鞭を取る教育熱心な方でな、
政治や経済だけでは無く、歴史や農業なども徹底的に叩き込み、
剣術、馬術などの調練にも余念が無かった」
「だが、親不孝にも聖騎士に憧れた兄は父の跡は継がないと言い出し、
大人しい性格だった私も、政略や戦争が嫌だと言ってしまい父の不興を
買ってしまった」
「それはそうでしょう。
自分の人生は自分のものなんだから当たり前なんじゃないですか?」
「そうか、お前の故郷ではそういった”しがらみ”が無いのか・・・
ここでは私達兄弟の言っている事が間違っていると言われるのだ」
「そっ、そんな・・・」
「別に父が息子の夢を握りつぶしたいと思っていた訳では無いのだが、
可愛い息子が跡を継いでくれない事がただ悲しかったのだと思う」
「それなら、お父さんに一票」と威流は心の中で呟く。
「そんな悩みの中に居る父に励ましと助言をしてくれたのが、
聖騎士では無い、フォンガンディ教のアーク司教だったのだ」
意外な事実を伝えながらキャンディ司祭はアーク司教に顔を向ける。
威流に向けて両腕を組み踏ん反り返るアーク司教であったが、
そのドヤ顔をした頬が赤くなり、照れ臭さが隠しきれていなかった。
「アーク司教は父の考えを尊重しつつも、
争いを好まぬ私が僧籍に入れる様に説得してくれた恩人なのだよ」
暴力の象徴みたいな荒ぶる体躯を持つ人間に、
何があったら”争いを好まない性格”というミスマッチが起きるのかと驚き、
以前に読んだ”ポップミュージシャン”になりたいのに、
与えられた才能が”デスメタル”だった青年の物語を思い出す威流。
「だからさっき、"人の人生は本来自由なものだ"と言ってたのは、
アーク司教のお陰でそうなったって事だったんですね」
「左様、これでお前にもアーク司教の偉大さが伝わったのではないか?」
話し終えたキャンディ司祭の顔は、
いつの間にか元の無機質、無表情に戻っていた。
「う~ん・・・
聞いた話だけで判断すると半信半疑といった所ですかね」
「ど・こ・に”半疑”があったのだタケルよ?」
「いや、若い青年の夢を応援する素晴らしい人とも正直思ってしまいましたが、
ただ”人手”を確保しただけとも取れますけど・・・」
「お主はそこまで人を疑いながら生きていて、
ちゃんと充実した人生が送れているのか?」
アーク司教は威流の返答に若干呆れ始めていた。
「そうですね、すいません。
一つ思う事は、アーク司教の行動は私利私欲の為では無いという事ですかね」
「お主は嫌な所を突いてくるな。
過去の罪を贖いたいという事は、
果たして私利私欲では無いと言い切れるのか・・・」
「そうですね、俺もそれが私利私欲なのかは分かりません。
だけど、そう仰る事が出来るアーク司教は信頼出来る方だと思いますけど」
「生意気を言いおって・・・」
そう言って、また照れ臭そうに笑うアーク司教を見た威流は、
思っていたより人として素朴で純粋なのではと思う様になった。
だがそれ以上、にあまりにも強引な勧誘方法が、
「無駄に色々な誤解を生んでいる」とも思う威流であった。




